Interview

2006年5月24日 (水)

R18リレーインタビューVOL.6 【川瀬陽太編】

ピンク映画ではどうしても女優さんに目がいってしまいますが、そうはいってもそこは男女のこと、男性なしでは話が始まりません。そんな中、満を持して登場する6回目のゲストは今のピンク映画界を知り尽くした男・俳優の川瀬陽太さんです。役柄ごとに違う魅力を見せてくれる川瀬さんですが、その素顔はいかに? デビューのきっかけからピンク映画の現代史まで語る語る! それにしてもマシンガン・トークの川瀬さん、その情報量たるや半端ではありません。気分的にはいつもより二倍速でお楽しみください。

Imgp9367■川瀬陽太:『団地の奥さん、同窓会へ行く』(Aプロ)/『たまもの』(Cプロ)/『言い出しかねて』(Dプロ)

▼助監督から俳優へ

ーどのようにしてピンク映画の世界に入ったのですか?

川瀬:僕は自主映画をやっていて、『ラバーズ・ラヴァー』(福居ショウジン監督/'96)という映画でデビューさせてもらった頃に、俳優の伊藤猛さんの口利きで福間健二さんの『急にたどりついてしまう』('95)という自主映画に参加したんです。そこにピンク業界の方がスタッフで多数いらっしゃって、(サトウ)トシキさんとか瀬々(敬久)さんとかとも一気に知り合えたんですね。それで瀬々さんが三宅島で映画を撮ることになった(『すけべてんこもり』/'95)ときに呼んでいただいて、瀬々さんの作品が4本ぐらい続いて、その後でいまおか(しんじ)さんや国映まわりの方々が使ってくれて、そのうち他社の方も使ってくれるようになって…という感じです。

—1995年より前は自主映画以外の商業映画の仕事はしてましたか?

川瀬:もともとは僕は助監督なんですよ。ただ、自主(映画)の助監督という全く屁の役にも立たないような…(笑)その頃まだVPという企業用のPR映画が結構あったんで、そこらへんでバイトしてるとそれなりに食えたんですね。それで何となく自主とVPの間を行ったり来たりしながらやっていて、でも『ラバーズ・ラヴァー』のときに現場が資金的な面も含めて立ち行かなくなっちゃって。このままじゃ(企画が)つぶれちゃう、現場をいったんバラすか現有勢力でやるかっていうときに福居さんが「じゃあお前でやるか」ということになって。あくまで繰り上げ当選的なものだったんで、そういう意味では役者役者した感じとは違うかもしれませんね。

ーそれ以前に観客としてピンク映画は観ていましたか?

川瀬:いや、観てなかったです、正直。その当時はよっぽど意識的にその世界に近づいてないと知る事ができない所にいましたね。僕らはちょうどアフター塚本(晋也)世代で、映画つくりたいっていうとコマ撮りだとかハイパーな映像がかっこいいみたいなところでやってたんで、どっちかっていうと(ピンク映画は)もっとしっとりした世界なんだろうなと思ってはいましたね。でも始めてみてこれだけ続いたのは、使ってもらえたというのと、あとやっぱり当然楽しくなっちゃったんですね。最初はひとつひとつのことがカルチャーショックだったし、けっこうドキドキしましたけど、もともと助監督的な気質があったんで、あんまり眠たいこと言わないでやろうという感じでやらせてもらって、それはとってもよかったですよ。

ー佐々木ユメカさんのインタビューで、川瀬さんとは『団地の奥さん、同窓会へ行く』(Aプロ)が初の夫婦役だったとうかがいました。

川瀬:そうですね、若いカップルみたいな役は多かったんですけど、いわゆる夫婦というのは初めてで。しかもその時に僕が私事ながら結婚をして、それが元で(脚本の)小林(政広)さんが、ご祝儀じゃないけど僕の名前でああいう話を書いてくれて、トシキさんも「しょうがないからお前でいっか」みたいな感じで使ってくれて。役者もやってて嫁さんも働いててっていうシチュエーションはそのままなんですけど、ピンクの現場自体は多少ファンタジックに描かれてますね。ただ置かれてる者の心情としては多少なりとも似たところがあったりとか。

ーサトウトシキ監督とはこれ以前にも一緒にお仕事されてますよね?

川瀬:何本かやってはいるんですけど、主役は初めてですね。端から見ててトシキ組の主役のつらさは知ってたんで、もう吐きそうになりましたね(笑)。どこか嘘をやってたりするとトシキさんにはすぐバレちゃうんで「じゃあもう一回」と千本ノックだから。NG出すとフィルムは回ってるのに未現像になっちゃうわけですよね、ビデオと違って何回も撮り直せるわけではないし。「それでもこの人は(フィルムを)回してくれるんだ!」みたいなのがあって。(『団地の奥さん、同窓会へ行く』でも)ラストのほうでピンクの監督に初めて異を唱えるシーンの撮影は、一方では劇中劇の撮影隊役の人のカメラが待機してて、もう一方では本物のカメラも待ってて、あんな異常な現場なかったですね(笑)。俺もユメカもあんまりものを考えないタイプだし、トシキさんみたいな人にあんなにガッチリ撮られたのは初めてだったんでドキドキしましたね。その前に女池(充)さんの作品で僕とユメカと田中要次さんで軽妙なラブコメみたいなのを一本やってたんですけど(『ぐしょ濡れ美容師 すけべな下半身』/'98)女池さんもやっぱりトシキさんの遺伝子を引き継いでるんで長撮りの兆候があって。ただ、あの時は撮影が長田勇市さんでせっかちな方だったんで、監督が「もう一回お願いしますよ〜」と言っても「ハイ、もう駄目、次行く!」みたいな感じで割とサクサクと。その反動がその後に女池さんとやった『不倫妻 情炎』('00)のときにきて、そこで女池さんはいい感じに垢を落としたなと思ったらあんまり呼んでくれなくなっちゃった(笑)。

ー監督はテイクごとに具体的に「ここが違う」というような演出はされますか?

川瀬:いや、言わないですね。言わないですけど「違う」って言われると違うなっていうのはわかるんで…何て言うんですかね、やっぱり長かったり集中力が途切れたりすると普通は程度問題で「ま、いっか」という感じになるんだけど、トシキさんの場合はある程度狭めた中でも自由にふるまえないとOKが出ないんです。

ーOKが出たときは、自分の中でその実感はありますか?

川瀬:そこがまた難しいところで(笑)、自分が上手くやれたと思うときは段取りになってるわけですよ。そうするとスタート地点にまた戻るというか。ただ、何回も何回もやってるうちにいい意味で疲れてきたりもするんですよね、何かやってやろう、とか上手く見せたい、とかがなくなってくるんです。要するに、笑えるシーンのときに笑わせようとすると駄目で、笑われなきゃいけないときってあるじゃないですか。こっちが笑わせようとすると客は引くんで。一生懸命やってないと笑えなくなっちゃう、というところにトシキさんは厳しいと思いますね。僕らが妙な手練手管を使う事を嫌がるというか。

ー佐々木ユメカさんは、川瀬さんとのカラミはもう「兄弟みたいだ」とおっしゃっていましたが?

川瀬:ああそうですね、「親とやってるみたいで嫌です」と書いておいて下さい(笑)。いや、もうほんと「おかあちゃん」て感じですかね。ピンクって面白いのは、男でも女でも同じ釜の飯を食ってるというか、しかも何から何まで見せちゃってるわけで──それはもうジャンル・ムービーとして必ずそのシーンがあるわけで──そういうつきあい方をしているとつながりも強くなりますよね、やっぱり。

▼林由美香さんに学んだこと

ー『たまもの』ではかなり個性的な役柄での出演でしたが…。

川瀬:『たまもの』は、何も覚えてないっちゃ覚えてないですけどね(笑)。いまおかさんのだとこの間撮り終わったやつ(『絶倫絶女』原題=おじさん天国)でも伊藤猛さんがとんちきな役をやっていて、どうやらユメカも飛び道具に…伊藤さんとは「あいつもこっちの世界に入ってきたね!」って冗談を言っていたんですけど。でもそれはいまおかさんなりにちゃんと「適当に」考えてくれてるっていうか…そういう意味ではこんなのやってもいいや、みたいな。まあドーラン渡しておけばいいじゃん、とか、髪長いやつがいてもいいじゃん、とか(笑)。でも実際たいした逸脱じゃないし、まあ笑ってもらってよかったなと。不思議とブルー入らないんですよね、いまおかさんだからしょうがない、いまおか映画の住人になろうということで。

—(笑)こういう役どころだと(役というよりも)「川瀬さんを観る」という感じですよね。

川瀬:あ、そうですね。本当に何も考えてないし、考えちゃいけないと思ってるんで。醜悪に見せたりとか、あまり作ってやったぞみたいな感じではやらないというか。さっきのトシキさんの話ともかぶりますけど、俺のダメなところとか間抜けなところがそのまま出たりすればいいんだろうな、と。いまおかさんはいわゆるイメージ・キャスティングはあまりしないんじゃないかな。『たまもの』のときも(林)由美香ちゃんのことを最初から選んでいたわけじゃないし。基本的には「こいつでいこう」というのではなく「この人だったらこういうふうに」という感じ。極端な話、「この人はないだろう」というのもないかもしれませんね。ただ、『たまもの』に関しては由美香ちゃんもそういう人なんですよ。「これがやりたい、あれがやりたい」というタイプの人ではない。由美香ちゃんは俺が(ピンクの)仕事を始めてから初めて会った有名な女優さんだったんですけど、『たまもの』のときは「いまおかさんてこんなだっけ?」みたいなメールがたくさんきた。わりと詰めて芝居を要求してきたみたいで「もうどうしていいかわからん」と言ってたんで、「いいんじゃないですか、それはそのまま委ねてやっていけば」的なことを言ったのは覚えています。由美香ちゃんが映っていればいいんですよね、いまおかさんは。由美香ちゃんが可愛いとかではなくて、多少なりとも知り合って色々会話をしていったときに、由美香ちゃんのいいところであったりとか、面白いところであったりとかをいまおかさんも知ってるわけで。僕らも本人が苦しんだり悩んだりした以上に「由美香ちゃんがやるんだから大丈夫」というのがあった。そういう意味では由美香ちゃんは芝居だって上手いと思うし、それだけじゃなくて由美香ちゃんがやってくれればおかしなことにはならんだろう、という確信はありましたね。あの人の天性の軽みというか。

ーだからこそ色々な監督がそれぞれに思う像を投影してきたというか…

川瀬:ああ、そうそう、ほんと。そういう意味では水みたいな女の子で。「とりあえずどうしたらいいの、あたし?」みたいな言い方をするのって人によっては「もうちょっと考えてよ」ということなんだけど、由美香ちゃんのそれって違うんですよ。本当によくも悪くもなく「どっちでもいいよ」と言える。俺らって多少なりとも役者の我というか、「こうしたい」とか思うじゃない? それで監督とディスカッションしたりするわけだけど、由美香ちゃんの場合は「あなたがそうしたいんならそれでいいよ」と言う。だから、俺が無理にこうしようと思ったところで大した問題ではないんだ、もうちょっと近づかなければならない物事の本質──っていうと大げさだけど──があるんじゃないかって。それは由美香ちゃんに学んだことですね。

ーそれで言うと、田尻監督が吉岡睦雄さんを「作りこんだ芝居をする人」とおっしゃっていたのですが。

川瀬:ああ、それはあいつが舞台の人だからじゃないですかね。芝居が上手いから逆に吉岡自身が出る、と俺は思ってるんだけど。たとえばチンピラみたいな役でも吉岡がやるといい加減な男になったりとか(笑)。もちろん色んな高低差や強弱をつけて演じるんだと思いますけど基本的には「吉岡」っていうキャラで、そこが役者としてすごいと思います。

ー『言い出しかねて』では向夏さんという新しい女優さんとも共演されていますね。

川瀬:彼女は自分の感性を信じてやっているところと、ある程度自分の中でプランを作ってやってるのかなと思うところと半々のような気がしてましたね。ただ、今回の作品で言うと“目が見えない”というのがポイントとして芝居の基本にあるんで、わりとやりやすかったんじゃないかなと思います。おとぎ話的なものだから、後藤(大輔)さんはこういう話を本当に上手くやる方だなあと思いました。この三作で共演した女優さんは本当に三者三様で、それぞれの作品がそれぞれ彼女たちだったから上手くいったんだと思います。

Imgp9370▼これからの時代にピンク映画を作る

ーサトウトシキ監督や瀬々監督といったいわゆる“四天王”と、いまおか監督や田尻監督といった一個下の世代と、両方の世代の監督と仕事をしてみていかがですか?

川瀬:(下の世代は)瀬々さんいわく「薄々弱々世代」ですね(笑)。80年代に多感な時期をすごした僕らとしては「ホイチョイ・プロ、冬はスキーだ夏は海だ、ミチコロンドン着るのか?」という世代だったし、いわゆる敵がいないじゃないですか。瀬々さんたち上の世代には抗うべき敵がいて、でもほんとにそうなんですよね。ピンクでもよく事件を扱ったりしますけど、俺らの世代の事件はちょっとストーリーにならない。やっぱりオウム('95)のときが映画を作る人の中でも最近では一番大きかったと思うんだけど、僕も今の猟奇的な事柄とかはあんまり興味がないんですよ。結果として猟奇的になったものの経緯は知りたいと思うけど…たとえば『ファーゴ』(コーエン兄弟)なんかは間抜けな話じゃないですか。でも揺さぶられるっていうか、余白なり空白なりに何かあるんじゃないかって思うんだけど、今のそういう事件はあまり興味がないなあと思って。僕らはやっぱりパーソナルなものに興味があるから、瀬々さんの描く人たちのように何かを負ってしまったとか、抗いようのない運命を背負った人の役は僕ら世代の監督たちはあまりふってこないですね。たとえば坂本(礼)の映画なんかは、自分の周りで自分が本当に感じたことをやる、日記みたいな感覚なんじゃないかなあ。自分の世界というか自分から見た世界ですよね。あいつの生活もまるでフィクションみたいに起伏に富んでるし(笑)監督によっては自分じゃできないから映画でやる人もいるだろうけど、坂本の場合は自分で行動できちゃうから身の周りをやるんだろうね。じゃないと撮れないというか、そういうものを撮りたくてやってる奴だから。これは瀬々さんとかとはアプローチが違いますけど。

ーそんな今の時代に上の世代の監督が社会に対する問題意識を持って撮っていくことは昔よりさらに難しくなっているのでは?

川瀬:ああ、瀬々さんの中でもやっぱりそれはあるみたいで。最近ね、瀬々さんが「パラダイムが転換したんだ」って映画のパラダイムシフトの話をしてですね、「あ、瀬々さんの中で何かが変わってる!」と思って。でも実際変わってきてると思うんですよ、僕ら世代的な風合いのことを瀬々さん的な目でみているというか…瀬々さんいわく「登場人物を放り投げたようにやりたい、後はどうなるかわからないけど」と。僕らの中でもこれからやっていく上において以前のようにはいかないぞ、という感じはありますね。僕らの世代は引き受けなければならないんですけど、今まさに僕らの世代が瀬々さんたちの世代にもの申す、じゃないけど、そういうのをやっている最中じゃないですかね。上の世代に対する何かはみんなあると思いますけど、その発露の仕方は本当に違うし、上がこうだったから下も同じような出方をするわけでもないし。思ってる方向は同じかなという気はしてるんですけどね。

ー瀬々監督やサトウトシキ監督の一般映画にも出演されていますよね?

川瀬:うん。でもやっぱりピンクの時とやる事は同じですけどね。今は本当にその垣根がないんで、どれが面白くてどれがつまんないかというだけの話。そういう意味ではいい世の中だなあとは思うけどね、ハリウッド映画でも何でも一緒っていうか。むしろ観てる側にその境目がないでしょ、作ってる側にあっても。作る側のほうが僕らはこのフィールドにいる、という自負だったりとか負い目が過剰に出てしまう可能性があるもんね。

▼逆に上げる

ーピンク映画でデビューされてから今年で11年になりますが、その間ピンク映画を取り巻く環境の変化は感じましたか?

川瀬:最近思うのは「僕らのスタンスはさほど変わってない」ということ。ただ、むしろ周りが変わってきましたね。ちょっと前だったらメジャー(一般作)とマイナー(ピンク)の線引きがある程度あったのが段々(バジェットだけの話じゃなくて)僕らに近づいてきちゃったというか。僕らは同じことをしてるんだけど、逆に上にいたような人たちが過酷な現場になってきたり。これだけコンスタントに35㎜のフィルムで撮ってるジャンルって今となってはピンクぐらいなんで。同世代の役者さんにもフィルムの前で仕事したことないという人がたくさんいるんですよ。ということは多少大きなバジェットの仕事がきても、そこで回してるのはデジカムだったり。どっちが悪いとかいいとかではないけれど僕はフィルムが好きだっていうのはありますね。偏見とかじゃなくて、やっぱりキレイだし、フィルムだとビデオより作品が残ってる感じがするんですよね。映画館でちゃんとかかって、地方をぐるぐる回って、バンドのツアーみたいなもんじゃないですか。途中でバンド名が変わって(ピンク映画は旧作をタイトルを変えて新版として上映することがある)新しいファンが作られて、最終的にはすり切れるまで…というのはちょっと素敵ですよね。

ー周りの敷居が下がってきているだけに…

川瀬:そうそう、逆に上がっていくといいですね。ここ最近はWEBドラマとかも増えてきて、アウトプットがどこにあるのかわからないようなことがあるんですよ。僕ら役者はやってることは変わらないんだけど最終的にどういう形で世に出てるのかわからないことが多くなってきてる。その意味で言うと今回の特集上映とかも劇場でがーんとかかって、そういうところに晒されないものが一般作にも多いだけにピンクって今やっぱりすげえなって思うし、もっと展開あるんじゃないかと。

ー変な言い方ですけど、本当に(作品としてのクオリティが)ちゃんとしてますよね。

川瀬:うん、ちゃんとしてるよー! そりゃあもう。なおかつ納期があって商業ベースにのっとってる。だからそこで思いをぶつけるし。本当はピーカンのシーンだけどその日雨が降っちゃったからそれなりのシーンにしたりというフレキシビリティもあったりして、あーピンクはいいなと。一番小さいユニットだから、カメラマンと照明と監督と役者数人と、助監督と…。大きな現場だと何の係なのかわかんない人もいるからね。

ーやっぱりピンク映画館で喜んでもらえるものを作りたいという気持ちはありますか?

川瀬:10年ぐらい前は観に来てた人が作り手になることもとっても多かった。亀有名画座という映画館が閉館になったときに僕らみんなで手伝って上映をやったんだけど、そのときも思いつめたような青年が当然のごとく瀬々さんのところに「ファンです!」みたいに寄って行ってて(笑)。でも今はそれがどこでも起き得る。いいところも悪いところもあるけど、ピンクは変わらずそこにあるだけで、周りの反応が変わってきたとは思う。それまでは上映が終わったら終わりだったのが特集上映やDVDになったりとかもして、「あ、ピンクでもそういう話があるのね」ってところからスタートしてもいいし。でもピンクって面白いのは、たとえば滝田洋二郎監督はメジャーの方ですけど、(昔ピンクを撮ったということで)どこかリンクしてるって勝手に思える。その意味でも俺は本当にピンクに出会えてよかったなって思いますね。若い監督によっては(ピンク映画が)たとえば絵画で言うとデッサンだったりクロッキー的な段階の人もいるわけですよ、もちろんピンクをずっとやっていく人たちもいますけど。でも最初の頃はどんなことを言っていても出来上がったものはその人の片寄りが出るんですよ。そういうときに出会うから、すごく一緒にものを作っている感じがあって、ピンクは本当にそれが楽しい。今回失敗しても「じゃあまあ、次行くか」みたいな。(国映の)おネエさんも「ずっとここ(ピンク)にいなくていい、出て行って構わないし」ということをよく言うんですけど。やっぱりデッサンだから描きながら作ることをよしとするっていうか、むしろここで変に固まっちゃってもしょうがないっていうか。

▼ピンク映画を「発見」する

ーもともと映画が好きで自主映画の助監督をされてたんですか?

川瀬:そうです。その頃は趣向がまた(デヴィッド・)クローネンバーグとかでしたけど、特に僕にとってはやっぱり瀬々さんの存在が大きくて。馬鹿な言い方だけど、こんなに苦しんで作ってるんだ、こんなに言いたいんだという感じは、自主の時には正直よくわからなかったんですよ。だから改めて映画が好きになりましたね。僕らの世代は芝居で言うと妙なナチュラル指向にとらわれてたっていうか、逆にピンクはアフレコだから自分の言ったことが一言一句出るわけですよね。(芝居をする)意味がわかりますよ。ちゃんと人にものを伝えるっていうことと映画の中での自然ということは普段のナチュラルとは違うんだということが。自分の中でも観る映画が変わりましたね。実生活ではこんなことは散々やってるから嫌だ!っていう映画があるんですよ。俺は映画やるんだったら映画のためにやりたいし、かっこよく言えば映画の中の人生をやりたいというか。

ーなぜピンク映画の世界で俳優をやるのですか?

川瀬:んー、ベタな言い方をすれば、僕らは「彗星のように現れた」人たちじゃないわけですよ。もしそうなら今頃メジャー映画でバンバンやってるだろうし。でもそうじゃなかったわけですよ、良くも悪くも。そうすると、ピンクだと脇役もやるけど次の日には主役もやる。なおかつ観てる側にしてもその人がどうなるのか展開が読めないじゃない?あまり知られているわけでもないし。だからこそ純粋に芝居を観て評価してくれるときもあるし。そういう自由度がとってもあるから、基本的には役者がみんな同じ地平に立ってるんですよ。芝居がめちゃくちゃ上手くてもカラミになったらメケメケになっちゃう人もいるし、「俺はここでやってた」みたいな肩書きが何の意味も成さない世界がピンク映画かな。満を持してやった、とか、万全を期してやった、とかが上手くいくとは限らないし、むしろそっちのほうがコケる可能性は高くて、どこか勢いをスポイルしないでやれたものがバッチリ出てくる気がしますね。それがピンク。瀬々さんだって芝居はまず成りでやらせるからね。トシキさんだって型を求めてるわけじゃなくて、お前のちゃんとした成りでやれよ、ってことだから。その意味では僕はまだ小さくまとまってるのかもしれない。

ー普段、撮影しているときには女性を意識していますか?

川瀬:ううん、しない。何でかって言うと、男がやってる以上は男の側からの視点しかもてないと思ってるから。で、僕らはその女の子を好きな奴っていうつもりで出てるから。あんまり女性のお客さんから見て、という感覚はない。

ーでは、できたものに対して「ここは女の人もわかるのでは」というところは?

川瀬:んーでもその場合は、ピンクを観てる女の子って男を見てないと思いますよ。女の子を見てると思う。私だったらこんな男好きにならない、とか思ってるかもしれないし。ピンクに関して女の人が見てるのは女の子だと思う。だから主人公の女の子への共感や反発は面白く観れるんじゃないですかね。僕らはいかにそこで触媒としてやっていくかというところかな。今回のラインナップは国映の作品が多いんですけど、よく見ると世代間のこともあるし、上の世代でも趣向の違う友松(直之)さんみたいな監督や、後藤さんみたいに僕らとは違う歴史を歩んできた監督がいたりして、面白い組み合わせになってるんじゃないかと。

ー海外では「ピンク映画」という概念自体がわからないそうです。

川瀬:そうそう、対比にはならないけどイタリアのソフトコアぐらいの感覚なのかなあ。イタリア人とはそういう話したけどね。アメリカ人なんかますますもってわからない。説明するときにも「プロレスとバーリ・トゥードの違いですかねえ」みたいな。だからこれは逆に誇っちゃうな、こんな変わったジャンルの映画はそうないと思うし。たまたま三本立てを観に行っておまけで観てしまったとか、そういう出会い方は幸せだと思いますね。こういう特集上映の何がいいってそこなんだよね。僕らが名画座に観に行って、その監督に何の恩義もないのに劇場に毎週馳せ参じたり、嫌いだった監督だけどこれは面白かったという発見が普通に楽しかったから。そういう発見の喜びがあるかもしれない、この上映は。ひょっとしたら誰も知らないような人に注目したりとか、その人がまた違う作品に出ていたりとか。それはちょっといいかもしれない。

10年という月日は長いようでも短いようでもあります。この10年で変わったこと、変わらないこと、それはピンク映画に限った話ではありません。もちろんそれ以前からピンク映画はありましたし、これからもそう簡単になくなりはしないでしょう。しかし昨日まで当たり前のようにそこにあったものがある日突然なくなることだってあるのです。そう考えると、この何十年かのピンク映画の歴史に続けていくことのちょっとした奇跡を感じずにはいられません。その奇跡を維持しているエネルギーがどんなものなのか、少しでも劇場で感じていただけたらと思います。

(インタビュー・構成:那須千里)

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2006年5月20日 (土)

R18リレーインタビューVOL.5 【平沢里菜子・向夏・華沢レモン編】

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R18映画は女優が命。今回は、平沢里菜子さん(『かえるのうた』いまおかしんじ監督、『ヒモのひろし』田尻裕司監督)、向夏さん(『ビタースイート』女池充監督、『言い出しかねて』後藤大輔監督)、華沢レモンさん(『たまもの』いまおかしんじ監督、『悶絶!!電車男』友松直之監督)といったフレッシュな新進女優陣にお集まりいただき、女の子だけの本音トークをしていただきました!

平沢さん、向夏さんはちょうどこの取材日の一年前がクランクインだったというご存知『かえるのうた』コンビ。向夏さん、華沢さんは本年度のピンク大賞・女優賞を同時受賞した縁。

現代女性の生き方を映画監督たちとともに表現してきた彼女たちは、ピンク映画をどう見ているのでしょうか?

▼Bプログラム『ヒモのヒロシ』『悶絶!電車男』/Cプログラム『たまもの』/Dプログラム『言い出しかねて』

-平沢さんは今回Bプログラムで上映される『ヒモのひろし』のヒロイン、というかマドンナ的なキャラクターを演じていますね。

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平沢「田尻さんには、若いときの倍賞美津子さんのような下町の男の人たちに好かれる感じの女の子だ、と言われたんです。でも倍賞さんが演じていたようなマドンナ役って結構感情の起伏が激しいというか笑ったり怒ったり表情豊かですよね。私が演じたハルカというのはあまり感情を顔に出さないクールな女の子で、私自身彼女がどういう感情でいるのかさぐりながら演じていたので難しかったです。なんで太鼓を抱えてるのかも含めて(笑)」

-田尻さんとお仕事した感想は?

平沢「現場ではすごく怖かったですよー!…なんていったら怒られちゃいますねぇ。うーん、なんていうか、監督の頭の中では撮りたいものがきっちり決まっているんですよ。いまおか(しんじ)さんは、怒ってみたり、沈んでみたり、おちゃらけてみたり、ひとつのシーンでもパターンをいくつか試してみてから決めていく感じなんですけど、田尻さんは演技のパターンを役者が試すよりも監督のなかで出来上がってて、それに演じていく側が沿わせていくタイプだと思います。」

タイトルロールを男優さんが演じているのも珍しいですよね。ヒロシ役の吉岡睦雄さんは今回の上映される8作品中3作品に出演している若手ピンク男優のホープですが、みなさん一度は共演されていますよね?

(お互い顔を見合わせ、なぜだか一同爆笑)

華沢:(ぼそっと)「変な人…!」

向夏:「いろんな作品に出過ぎ?」

平沢:「でもやっぱりダメ男が一番似合う!誰にでも愛されるキャラクターを持った方だと思いますよ。」

(そしてなぜか再び一同爆笑)

-向夏さんの『言い出しかねて』も、『ヒモのひろし』とはまた別の意味で奇抜な作品ですね。

向夏「目が見えないからって好きな人を取り違えて恋愛するなんて、普通はありえないですよね。でもそれを通り越して登場人物たちが一生懸命だから見てるとぐっとくるというか…。健気なんですよね。」

監督の後藤大輔さんはどんな方ですか?

「私がいままでお仕事してきた他の監督さんの中で、役者になにを求めているのかっていうのが一番わかりやすかったんです。でも監督は妙に自信がない感じでおっしゃるんですけど。」

-目が見えない少女というのも難役でしたね。

向夏:「よくやりましたよね~(遠い目)。撮影中はちょっと身体の感覚がおかしくなりました。演技していない時でも、見えているものを見えないフリをしてしまったり。けっこう役に入っちゃってましたから。」

-この作品で共演されてる川瀬陽太さんも男優としてピンク映画界のキーパーソンになっている方ですよね。

向夏「でもね、いつも酔うとぐだぐだになってるんですよ。実は昨日も一緒に飲んでました。撮影中はすごくやさしくて、助監督みたいに気を使ってくださるんですよ。」

-華沢さんはピンク映画デビュー作でもあるCプログラムの『たまもの』と、Bプログラムの友松直之監督の『悶絶!電車男』で自殺して幽霊になった彼氏と再会する女子高生役ですね。

華沢「友松監督もかなり個性的な方なので現場は楽しかったです。女子高生役なので制服を着ているのが恥ずかしいんですけど…。自分的には女子高生はもう限界かなって思っているんですけど、なぜか制服着る役が多いんですよ。」

『たまもの』ではかの林由美香さんとひとりの男性を取り合う役でその年のピンク大賞の新人女優賞を受賞しましたね。

華沢「はじめてのピンク映画だったので、すっごく緊張しました!しかも由美香さんとでしたし。同じ部屋に泊ったんですが「私こんな悩んだ作品はじめて…」と由美香さんがずっとお酒を飲みながら苦悩されていたのが印象的でした。うまく言えないんですけど「わあ、本物の女優さんだ!」とはっきり思いました。最初の作品で由美香さんと共演できたっていうのは緊張したけど、すごく刺激になりました。わたしも頑張らなくっちゃ!って思いましたよ。」

▼いまおか組ってさぁ・・・

『たまもの』はかなりリテイクを重ねたと聞きました。平沢さん、向夏さんも『かえるのうた』でいまおか監督のリテイク攻撃は経験済みですか?

向夏「そうですね。いまおかさん、とにかくなにも言ってくれないので。『かえるのうた』でもひとつのシーンを、いろいろ試しながら撮ってましたからね。」

華沢「監督の中ではっきり決まっていない。キャラクターの設定も突然現場で変わりましたから。いきなり「じゃあ、やくざの娘ね!」とか。」

平沢「考えてないみたいですよね。よく「どうすっかな~」って言ってますし。」

向夏「でもすごくいいタイミングを待ってるって感じがします。」

「いいタイミングを待つ…」いまおかさんの釣り人精神があの独特な“いまおか節”を生んでいるのでしょうか(笑)

▼女優からみたピンク映画の内側/外側

ピンク映画の良さってどういうところだと思いますか?

向夏「女の子の恋愛って、普通に彼氏とおしゃべりしたり遊びにいったりする部分と同じくらいラブシーンにあたる部分が重要だと思うんですけど、一般映画ではラブシーン自体そんなに深く描けないじゃないですか。ピンク映画の場合その部分自体がジャンルなのでそういう表現をできるということがすごく強みだと思います。」

平沢「そうですよね、今回の上映みたいに女の人がピンク映画を見れる機会って少ないと思うので私は女の子が観て、どういう感想をもつのかすっごく興味があります。観てくれた人からのメッセージが欲しいです!」

向夏「そうそう、なにも考えないでさらっと観に来てほしいですよね。」

華沢「別に絡みのシーンがある、なし関係なく、すごくストーリーもきっちりしているのでこの機会に観てほしいですよね~。全部の作品観て欲しい(笑)」

ピンクの業界って監督、スタッフ、役者ほとんど顔見知りっていうのが多いですよね?今後一緒にお仕事してみたい方とか、気になる方はいますか?

平沢「私は女池さん!」

向夏「えーっ、やめておいたほうがいいよ!」

平沢「えっ、どうして?『ビタースイート』とか観て一緒にやってみたいなって思いました。」

向夏「私もできるだけ色んな監督とお仕事してみたいとは思ってますけど、田尻作品にはもう一度リベンジしたいなって思います。デビューしたてでお仕事したとき、うまくできなくていまだに気になってるんですよ。だからまたご一緒したいと思ってます。あ、別に使ってくれ!って宣伝してるわけじゃないですけどね(笑)。」

華沢「みなさんプライベートの飲みの席ではよくお会いするんですけど、仕事は一緒にしたことがないってケースが多いんですよ。」

向夏「あー、わかりますわかります!」

華沢「なので、私はそういうケースでは坂本監督の作品に出てみたいなぁ~なんて思いますね。監督として現場でどんな感じなのかなって知りたいです。」

- あと女性の目からみた場合、ピンク映画の公開時のタイトルにはぎょっとするものがありますけど、実際出演されてるみなさんとしてはそのへん率直に言ってどう思ってますか?

平沢「そうですよね~。『かえるのうた』だって公開タイトルは…」

向夏「『援助交際物語 したがるオンナたち』、です!(笑)」

華沢「“巨乳”とか“痴漢列車”とかそういうタイトルがつくのは当然だけど、演じている方でも「うわ!」ってやっぱり思いますよ。あんまりタイトルを人に言えないというか…。」

向夏「内容は全然猥褻な感じでもないけど、そういうタイトルがついているだけで女性はまず見ないですよね。だから今回みたいに改題しての上映っていうのはちゃんと作品の内容に沿ったタイトルだし、それで色んな人が見やすくなると思います。」

平沢「題名だけで先入観をもたれてしまうのは悲しいですからね。監督も役者もみんながんばってて面白い人が多いですよね。」

ピンク映画の面白いところで勝負をつづける3女優の忌憚なきトークいかがだったでしょうか? クールな美貌で一刀両断に発言する平沢里菜子嬢、明るくはきはきとした中に印象的なコメントを残してくれた向夏嬢、キュートで若さゆえの傍若無人さがたまらなかった華沢レモン嬢、三者三様の魅力がうずまく座談会でしたが、やはり彼女たちは女優。それぞれの魅力は是非スクリーンで現認していただきたいです! (インタビュー・文:綿野かおり)

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2006年5月17日 (水)

かえるのうたDVD&ポレポレ・大槻支配人インタビュー

いよいよ今週末からR18 LOVE CINEMA SHOWCASE 、上映スタートです。皆様のご来場、心よりお待ちしております。

001先日は「かえるのうた」DVDのオーディオコメンタリーの収録で販売元の紀伊國屋書店さんに行って来ました。(発売は8月)今回の参加者は出演のお2人・向夏さんと平沢里菜子さん。司会も女性ライター・綿野さんということで監督不在・男子禁制コメンタリーになりました。こわやこわや。そしてこちらで絶賛継続中の「いまおか日記」の一部もブックレットの方に収録されます。ご期待ください!

さて、今回の特集上映に合わせまして、Movie Walker/NIPPON EROTICS plus(9)ポレポレ東中野支配人・大槻貴宏氏インタビューを敢行しましたので是非御一読ください。

それでは、引き続き宜しく御願い致します。

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2006年5月16日 (火)

R18リレーインタビューVOL.4【田尻裕司編】

ひとと違うことをするのは大層難しいことのように思われていますが、実はそうでもありません。要するに、他人とは反対のことをやればよいのです(少なくとも原理的には)。いわゆる逆転の発想というやつです。しかし否定の否定は肯定です。よくないの反対はよくなくない、またその反対はよくなくなくない…というように。その先には一体何があるのでしょうか。そこで今回は、否定から始まる映画づくりについて聞いてみました。講師は第一回目の佐々木ユメカさん、前回の坂本監督&いまおか監督からも熱いエールをいただいた田尻裕司監督です!

Imgp9307 ■田尻裕司:『ヒモのひろし』(Bプロ)/『痙攣』(Dプロ)

▼勝てない

田尻:僕、声小さいんですけど大丈夫ですか?

―大丈夫です。声が小さいと言えば、『痙攣』では囁くような話し声が印象的でしたが、あれは同時録音ですか?

田尻:同録でやってるせいもあるんですけど、(音が小さいのは)技術的な問題もありますね。

―なぜ同時録音でやろうと思ったのですか?

田尻:ひとつはその前に『たまもの』('04/いまおかしんじ監督)があったからです、あれは同録なんですけど。もともと作品によっては昔から同録をやってみたかったというのはあったんです。『ヒモのひろし』なんかはリアリティのない話なのでその必要はないと思うんですけど、そうじゃない場合は同録のほうがいいなあと思っていて。アフレコだとどうしても声が浮いちゃうというか、声は通るんですけど(画面に)馴染まないんですよ。馴染まないことでシーンに継続性を持たせるという効果はあるんですが、セックス・シーンではそうしたくないんです。カットも細かく割ってるんですけど、その切れ目をつけたくないんですね。特にセックス・シーンなんかは生ものだと思っているので、それを同録で撮りたいというのがありますね。

―『たまもの』はセックス・シーンでいわゆる“本番”をやっていますよね?

田尻:『たまもの』をやる前に僕といまおかさんで言い争いをしたんです。僕はやっぱり映画って作りものであるところが素晴らしいと思ってるんで、じゃあ人を殺すシーンを撮影するときに本当に殺すのか、と。それなのになんでセックス・シーンだけ急に本番をやるんだ?と。でもやっぱり観るとショックを受けるんですよね、勝てないなというか。今までずっと観てきたものや自分のやってきたことに対して「勝てない」という。でも、勝てないで終わったんじゃ、なんか…。

―具体的にはどこが一番「勝てない」と思われましたか?

田尻:セックス・シーンです。『たまもの』の一番の魅力は僕はセックス・シーンだと思ってるので。実際の行為だけじゃなくて、触れ合うというか…お互いに話しているときの間だとか、「くっつく」瞬間の女の人の一瞬の息づかいとかはアフレコじゃ絶対に出ないから。だけど負けを認めたんじゃ、もうピンク映画を撮っていけない気がしたんですよ。それは自分のやっていることも全部否定することになっちゃうから。何とかして勝てる方法を探さなきゃいけないと思って、それには要は音なんですよね。音さえなんとかすれば…と思ったんですよね。

―実際に(同録を)やってみていかがでしたか?

田尻:えー…負けましたね。結局、実際に(本番を)やらせるようには僕が息づかいを演出できなかったんです。同録で撮ってるんですけど、やっぱり出ないんですよ、そういうような息にはならなかった。

―それで「勝てなかった」と。

田尻:だーかーら、作品全体じゃなくてセックス・シーンに関してですよ!

―佐々木ユメカさんのインタビューで、『痙攣』ではリハーサルをされたと聞きました。

田尻:それもつまり…勝つには(どうしたらいいか)ということで。方法論としてまともにやったんじゃ勝ち目はないと思ったんで。要はセックス・シーンのリハーサルをやりたかったんですよ。いかにしてあの息を出せるか、ということだったんですよね。それを現場の短い時間でやるのは無理だと思ったんです。で、リハーサルを4日ぐらいやらせてもらって、なお且つ現場でもそこには相当時間をかけましたけど…。

―でも、作品が違えばその中でのセックスの意味合いもまた変わってくるので単純な比較はできないのでは?

田尻:うん、そうなんですけど…息のことと、あともうひとつは、僕はさっきセックスのことを「くっつく」と言いましたけど、くっつくと音が出るんですよ。以前に女性の胸を揉むときの音を作ろうとして色々と効果音を試してみたんですけど、全然ダメで(笑)。だけど音は出るんですよね、頭の中では。特に男と女がつながるときのあの音なんですよね、『たまもの』だといい状態で観ると聞こえますけど。その音がねえ、一生懸命作るんですけどどうしても出せないんですよ。だからといって僕はいまおかさんみたいにやるのは認めないし、今後も別の形で挑戦しようとは思ってますけど。

▼女性を魅力的に                                            

―『痙攣』の佐々木ユメカさんのキャスティングは最初から決まっていたのですか?

田尻:その前に『不倫する人妻 眩暈』('02)という作品をやったときに、そういうふうに撮ったというのもあってユメカは非常に魅力的に見えたんですよ。撮る前は色々あったんですけど、クランク・インするときに「これはもうユメカを撮ろう、それが一番いいに違いない」と思って、やたらめったらユメカの顔ばっかり撮った印象があるんですけど。で、出来上がったものを観るとやっぱり素敵だなあと思うんですよね。だけど、その…僕は色んな映画を観るんですけど、映画の一部しか観てないんですよね。でかいスクリーンがあって、人物の全身が映っててもほとんど顔しか観てないんですよ。周りで何かが起こってても全然そっちのほうに目がいってないんです。だからユメカの顔を撮ろうと思ったときもある程度勝算があってやってたんですけど、なんかこう、出来上がりに自信が持てなくて…。顔が素敵だったら映画も素敵になるだろうというのは、どうも僕の勘違いだったということに気づいたんですね。顔さえよければ映画がいいというんだったら、全体にちょっと波及してなかったなと思って。別の言い方をすると、顔はよかったけど波及が行き届いてなかったなと。

―キャスティングありきの作り方はいかがでしたか?

田尻:僕は(同じ俳優と)二回やるのはあまりよしとしてなくて。「恋してる」というとあれなんですけど、ピンク映画をやるときは女性をどれだけ魅力的に見せられるか、というところだけは外さないようにしようと思って力を入れてるんです。だから二度目より一回目のほうがドキドキ感があるというか。初めての人のほうが、僕が考えていることを相手がどうやるのか予測がつかなくて楽しめる、というのがあるんで、わりとそういう新鮮さを求めてるところはあるんですよね。本当はもっと芝居をガチガチに組んで全部作りものであったほうがいいとは思ってるんですけど、それだけの時間と実力が僕にないんですよ、自虐的な言い方だけど自信がないんで。だけど、ユメカが素敵なのに映画全体にそれが行き届いてないのはまずいな、と思って。それで絶対にもう一度やろうと思って、ユメカ主演を先に決めて脚本を作ったんですね。脚本家の芳田(秀明)さんにユメカの作品を渡して、彼女主演でやりたいと言って。

―そんな田尻監督の作品は女性からの人気も高いですが。

田尻:(苦笑い)べつに嫌なわけじゃないんですけど…日活ロマンポルノとかでも女の人が魅力的なものは、その人の裸だとかセックス・シーンを観て「ああ、いい女だなあ」と思うんですよ、男性として。やっぱりそうあるべきだと思ってるんですよね。だから「女性を魅力的に」というのは、男性から見て魅力的に見えるように作ってるんですよね。

▼日活ロマンポルノからピンク映画へ

―ピンク映画を観始めたのはいつ頃からですか?

田尻:ピンクは1987年からですね。それまでは田舎で日活ロマンポルノをテレビで見ていて、『狂った果実』(根岸吉太郎監督)が大好きで。東京に出てきて、当時いっぱいあった成人映画館で映画ばっかり観てたんですけど、目蒲線の鵜の木駅にあった「安楽座」という映画館で観たのが一番最初です。三本立ての一本に佐藤寿保監督の『ロリータ・バイブ責め(秘蜜の花園)』が入っていて、ピンク映画だとは知らずに観たんですけどもう衝撃的で! こんな映画がこの世に存在する、というのが。当時(いわゆるカルト映画とされている)『エル・トポ』(アレハンドロ・ホドロフスキー監督)とか『追悼のざわめき』(松井良彦監督)が好きだったんですけど、前者は完全にちゃんとしてるし、後者もまだ僕の中ではみ出してはいないというか、あってもおかしくないという感じだったんですね。でも寿保さんの映画を観たときは、こんなものが存在するということが信じられない!みたいな。エネルギーというか、凄まじいんですよね。すごい衝撃的でしたね、あれは。それからは新宿国際(劇場)とかにも行くようになって。

―観客から作り手になったわけですが、同世代の他の監督はどのような存在ですか?

田尻:「五人組会」というのを一年に一回やるんですけど(笑)。それはいまおかさん、榎本(敏郎)さん、女池さん、坂本、僕という助監督時代からの知り合いの五人で、坂本いわく「五人で助け合って映画を撮っていこう!」という会なんですよ。このあいだ坂本が引っ越したんですけど、今度そこにみんな集まって黒板を用意して…というのは、「エドワード・ヤン(揚徳昌)とホウ・シャオシェン(侯孝賢)は若い頃はそうやって黒板に色々書いて語り合ったんだ」と坂本が言ってて、「えーこんなことやりに坂本ん家に集まんの? 行きたくねー」と思ったんですけど(笑)、それぐらい仲がいいということです。

▼今までとは違うことを

―今回は田尻監督だけ二本上映されます。

田尻:このえこひいきは何なんですかねえ(笑)。

―タイプの違う二本ですが、恋愛映画8本の中に選ばれた心境はいかがですか?

田尻:二本選ばれたのは、喜ぶべき?(笑)タイプが違うというのは、『たまもの』に対抗して『痙攣』を撮ったことで、自分の今の余力では(これまで目指してきた)セックス・シーンには到達できないというのがあったので、そうじゃないものをやりたかったんです。『ヒモのひろし』のシナリオ(守屋文雄)はみんなで審査して一位に選ばれたやつで、みんな「いまおかさんがやったほうがいい」という意見だったんですよ。僕はそれまでジメジメした二人だけの世界で触れ合う音とかを目指してたんですけど、もっとおおらかなものをやるんだったらやっぱりコメディのほうがいい。今までコメディをやらなかったのは、それがセックス・シーンに合わないと思ってたからなんで。そのときにそういうホンがあったから、いまおかさんに「今回は(やらせて欲しい)」と言ったら、「ああ、いいよ。やりたきゃやれよ」みたいな感じで。

―守屋さんの脚本の世界と今までの田尻監督の作品のテイストがすぐには結びつかなかったのですが。

田尻:いや、そうでもないですよ。デビュー作(『イケイケ電車・ハメて行かせてやめないで!』/'97)は結構おバカ映画なんで。

―『ヒモのひろし』はコメディですよね?

田尻:コメディのつもりで撮りましたよ? やりたかったのはおおらかであったり躍動感のあるものです。守屋さんの脚本はものすごいエネルギッシュで昔の映画を観ている印象があって。うちの親父たちの世代というか、戦後の混乱の中でくだらないことでゲラゲラ笑ったり泣いたりしながら一生懸命生きている単純な人たちの世界を想像していて守屋に聞いたら「いえ、現代の人たちを描いたつもりです」と言われて。自分でホン書けないから他人に頼むんですけど、生真面目なんで、特にこのときはみんなで審査して選んだ脚本だったから「できるだけ手を入れちゃいけない、変えたら何のためにみんなで選んだんだ」と思っちゃったんですよね。ただ、出来上がったものに関して言うと、もうちょい僕もおおらかで(ルーズで)あったほうがよかったかなあ、と。

―今までとは違うことに挑戦する上で新しく試みたことは?

田尻:僕は普段ものすごくカットを細かく割るんですけど、あれは長く回してるんですよ。どうしても周りに影響されやすいというか…助監督時代についた監督で長回しするのは瀬々さん、同期だといまおかさん、その後(サトウ)トシキさんがやるようになって、坂本もエノ(榎本敏郎)もみんなそうなんですよ。さっきの五人組でいうと(長回しじゃないのは)僕と女池さんだけなんですね。僕はもともと長回しのほうが好きなんですよ。でも周りにこんだけいっぱいいると「絶対するもんか!」となって。たまーにラストシーンでやるのはね、タガが外れちゃうんですよね。それで(長回しには)抵抗があったんですけど、『痙攣』で今までずっと自分が考えてやってたことがもう難しいな、と思ったときに、これまでと全然違ったことをやるんだったら、過去にやってきたことを大事にしてこだわる必要はないと思ったんですよ。どうせもう色んなことを辞めてるんだから、やりたいんだったらやればいいじゃん、と自分で思って。ひとつやめるともう何もかもやめたくなるんですよねえ。それで長く回してみたんですけど…。

―最後のほうでみんなが代わる代わる墓碑に近づいてくるシーンがそうですよね。

田尻:あーれ長かったですよねえ! 僕の頭の中ではそれまでがものすごくテンポがよくて、あそこで急にテンポが落ちて、最後にまたぐーんと上がるつもりだったんですよ。

―ひろし役の吉岡睦雄さんはこれまであまりコメディの印象はありませんが、最初から決めていたのですか?

田尻:そうですね。コメディやらせてみたいなと思って。吉岡は、うまくいっているかどうかは別として、ものすごい作りこんだ芝居をする役者なんですよ。僕はナチュラル芝居っていうのは芝居じゃないと思ってるんで。

―作りこんだナチュラルさかもしれませんよ?

田尻:吉岡はそれでもなくて、簡単に言うとクサい芝居をするんですよ。その中でもA、B、C、D、Eと色々持って来るんですけど、それがすごい好きで。僕は映画は作りものだと思ってるから、ナチュラルなんて映画じゃない、ドキュメンタリーだろう、と。『ヒモのひろし』は僕の中でリアリティとはかけ離れたところにあるものだったから、今考えうるキャスティングの中では吉岡しかいない、と最初から決めていましたね。これまでキャスティングありきで作ったのは『痙攣』のユメカと『ヒモのひろし』の吉岡だけですね。

―真逆に向かって撮られた両作ですが、結果的にはどちらのほうがより目指したものに近づけたと思いますか?

田尻:反省度合いが大きいのは………『ヒモのひろし』かなあ。

▼逆転の映画づくり

―田尻監督といえば手持ちカメラですが。

田尻:ですよねえ、三脚借りてないですからねえ。『OLの愛汁 ラブジュース』('99)のときに借りなかったんで。その判断はキャメラマン(飯岡聖秀)じゃなくて僕がしてます。あのときはセックスの「くっつく」瞬間を撮りたいっていうのがあったので、三脚をがちっと構えると客観的になっちゃうからもっと近寄りたいっていうか。FIXなんですけど、手持ちの柔らかくて遠くない視線でそれを見つめていたいと思って。

―あと田尻監督といえば色合いが特徴的な気がしますが。

田尻:そうですか? 原色や濃い色は好きですけど…色よりも光のほうが相当注文が多いと思いますね。

―あ、そうですね。色が印象的と感じたのはきっとその印象だと思います。

田尻:照明は、光の光源が何でこのシーンではどこに持ってくるか、ナイトシーンだったら光源を月光にするのか電灯の明かりにするのか、とかそういう話はしますね。一番いいのは太陽の光がダントツですよ。ピンク映画だから自然光が多いんですけど、お金があるんだったら自然光に近い照明を作って、(パトリス・)ルコントの『髪結いの亭主』の外からの光とか、撮りたいですねえ。

―『痙攣』では女性ボーカル(「I am frogs」)の曲が使われていますね?

田尻:僕は映画で歌謡曲が流れてるのがすごく好きで。歌モノで使えそうなインディーズ系のとかを探してもらってたらよさそうなのがあって、まだCDにしてない未発表曲も使って欲しいということで、その曲のほうは使ってるのかな。でも嬉しくて、スケベ根性でちょっと使いすぎましたね(笑)。かける回数じゃなくて曲数ね。使えるんだったら使ってやろうっていうのもあったんですけど、ピンク映画って音楽に対してストイックすぎるというか、使えないというところから発想してるから、なんかそれは発想が貧困だなあと思って。いっぱい使うのが普通みたいなところから出発してもいいんじゃないかなあというのがあったんです。

―逆から発想されることが多いんですね。

田尻:反発心が強くてねえ(笑)。素直に何かをするってことはほとんどなくて、誰々に何かを言われたとかあの人は何をやったとか自分は今までどうやったからとか、とにかく何かを決めないと出来ないんですよ。 

―自分で自分に制約を課す感じですか?

田尻:うん、基本的にはまず自分の中で縛りを決めて、その中で何をやるかっていうふうにしていきますね。ピンク映画の限られた中でやるんだったら何でもかんでも自由にやるのもどうかなあ、とか。ひとつひとつ、宿題を自分に課しながらやってますが。

▼ピンク映画だからできること

―ピンク映画と一般映画の一番大きな違いは何でしょう?

田尻:くっつくまではエロ映画でなくてもできるわけだから。エロ映画の神髄はその後のことだから、くっついてから観てる人をわくわくドキドキさせるものを描かなきゃいけないんですよね。そういう瞬間を作り出せなきゃいけない。それは脚本全体の問題でもあるので、なかなか、まだまだ宿題は…これからもピンク映画は撮るんでその中でやっていければと思います。

―最後に、今回初めて観るお客さんに田尻監督ならではの見どころをお願いします。

田尻:僕は成人映画っていうのはエロ映画というひとつのジャンルだと思ってるんで…本番をやるエロのドキュメンタリーじゃなくて、エロのフィクションですね。だからそこを観て欲しいし、エロも映画の醍醐味のひとつだと思います、小さい頃にキスシーンを観てときめいたのと同じように。でも実際にはセックス・シーンは長いと思います。長いシーンがあってもいいけれどもっと短いほうが的確に表現できると思う。だから『OLの愛汁 ラブジュース』のときは、それを逆にしないと無理じゃないかというところから作ったんです、セックス・シーンありきの話にすれば短いほうがおかしいと思って。でもあんまり同じ方法をやるのは…我ながらその宿題はクリアーしたんで…だから今は別の方法でその部分をクリアーしたいなとは思ってますけども。なんかね、「くっつく瞬間っていいよね」とか。何を観て欲しいか、ということで言うとそこを撮りたいですね。

同一監督による対照的な二作品。片方を観ることでもう片方がわかってくる…こんな見方ができるのも特集上映の醍醐味のひとつです。田尻監督の目指す「作りこんだ世界」の中で唯一(?)本物を使ったコオロギ相撲(『ヒモのひろし』)も一見の価値アリ。ふたつとも観て、それぞれの味を比べてみるのがおすすめです。

(インタビュー・文:那須千里)

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2006年5月13日 (土)

R18リレーインタビューVOL.3【坂本礼&いまおかしんじ編】

映画を観ただけなのに、それを作った人をわかった気になってしまうときがあります。しかし当然ですが「映画=監督」ではありません。残念ながら、素敵な映画の作り手が必ずしも素敵であるとは限らないのです。逆に言えばたとえ素敵じゃなくても素敵な映画を作ることはできるのです。監督を見ればその人の作った映画がもっとわかるのでしょうか? というわけで、第三回目のゲストは坂本礼監督といまおかしんじ監督。かつては同棲していたこともあり、今回も仲良く二本立てのパートナーとなっているお二人の「Cプロ」特別対談です。

Imgp9072■坂本礼:『ふ・た・ま・た』(Cプロ)
■いまおかしんじ:『たまもの』(Cプロ)

▼ホンに負けてる

―坂本さんは『たまもの』はいかがでしたか?

いまおか:ダメっぽい感じだったね、最初。何て言ってたっけ?

坂本:貧乏くさい。いまおかさんの映画はチープだから。中身じゃなくて、外見ですよ、セットとか撮ってる場所とか適当だし…。

いまおか:俺はこだわろうと思ったらできるけど、キャメラマンがいいって言ったらいいから。

坂本:他人のせいかよ! でもまあ、そうだよね。

―逆にいまおかさんは『ふ・た・ま・た』は如何でしたか?

いまおか:(坂本は)自分で最初にホン(脚本)書くんだよね、原案というかプロットというか。

坂本:僕が書いたホンは大体いつも最初にいまおかさんが読んでるんですよ。

―(『ふ・た・ま・た』の)脚本は尾上史高さんですが、『草叢』とはまた全然違った印象ですね。

いまおか:感想忘れてるなあ…悪くないなとは思った。最初に読んでからずーっと読んでなくて、映画を観たの。いや、「尾上君頑張ったな!」っていう感じでしたね。でもなんか、あれだよね、ホン読んでないくせに、ホンに負けてる気がしたよ。

坂本:ああー…そうねー。

いまおか:決め台詞みたいなのが結構あるじゃない、そのときに必ずポーンて切り返してるけど「これ切り返さないほうがいいんじゃねえか?」とかさ。だからホンの通りに割とやっちゃってるのかなと思ってさ。

―脚本通りにやろうというつもりはあったんですか?

坂本:ホンの通りにやるよ、書いてあんだから。

―脚本に書かれていないことは撮らないんですか?

坂本:ホン通りでないことはないよ。結局、ホンに書いてあることもないことも、ホンを元にして作るわけじゃないですか。行間とかも含めて「ホン」ということを僕は言ってるつもりなんだけど。ホンに全くないことは…撮れんのかなあ、と思うんだけど。

―完成版の展開や結末も脚本通りですか?

坂本:そうそう、地図書いた通り。多分そうだと思うよ。

―いまおか監督は『たまもの』を撮る前はけっこう時間が空いていましたよね?

いまおか:そう、2年ぐらい空いてたんだよね。その前に(サトウ)トシキさんにホンを頼まれて、『手錠(ロスト・ヴァージン やみつき援助交際)』('02)が若い女の話だったからおばさんの話がいいかなと書いたんだけどずっとお蔵入りになってたのを、あるとき(国映の)オネエさんに「あれやれば?」と言われて。俺はやっぱホン作りが気になるんだよね。これはどういうやりようで決定稿に落ち着いたの? 最初の大元を自分で書いてるから、後はもう球は投げたという感じなの? それとももうちょっと速い球にして投げていきたいなという感じなの?

坂本:その例えがどうなのかよくわからないけど…現場ではもっとよくなったらいいなと思って撮ってるんじゃないの?

―でも、ご自分では(脚本は)書かれないんですね?

坂本:それは僕に筆力がないからです、単純に。字は書けるけど、シナリオは書けない。たまに漢字も間違えます。自分の監督作に関してはそういう気持ちでやってます、今の段階では。

いまおか:でもいっつも思うんだけど…坂本の最初に書いてくるやつもさ、へんてこりんだよね、テーマが。変ていうかさ、「こんなのエンターテインメントにならんだろう!」というところに目がいくんだよね。わかりやすく言えば“生と死”みたいな。自分で最初にホンを書いちゃうっていうのもそうだけどさ、やりたいことがあって映画を作ってるっていうのがさ…うーん、いいんだけど…いいのか?

坂本:「やりたいことやりやがって!」みたいに言うけど、いまおかさんだって芯があるじゃないですか。俺なんか、いまおかさんほどないよ。褒め合ってるみたいで気持ち悪いけど、でもまあそういうことじゃない? だって負けたことないでしょ?

いまおか:あるよ。

坂本:うーん、たまにあるか。でも曲がった気はしないんだろうけど。いまおかさんは芯ありますよ、誰よりもあるんじゃない?

Imgp9067▼ふたまた疑惑

―Cプロではお二人とも俳優の吉岡睦雄さんをキャスティングされていますが?

坂本:「ふ・た・ま・た」の吉岡君は『疑惑』(野村芳太郎監督)の加賀丈史ですよ。この映画は存分に『疑惑』だから。ちょうど撮るちょっと前に野村芳太郎の追悼上映を東劇で観て、「これだ!」と思ったんだよ。(脚本の)尾上君にも、女二人が顔を合わせるところは『疑惑』の桃井かおりと岩下志麻の対決のシーンみたいにしたいんだけど、と言って。

―『ふ・た・ま・た』は橋の上から窓に急にズームするシーンがありますよね?

坂本:んー、そうしたらいいかなと思ったんですね。

いまおか:あれは坂本の意見なんだ。

坂本:うん、だってズームレンズは借りてこないとないじゃん。場所決めてから「ここからこういうふうに撮ったらどう?」みたいな話だったのかな。

いまおか:ああ…へえー。考えてんじゃん、カット割りとか。

坂本:考えてるよー。

いまおか:俺、考えてないよ。キャメラマンまかせ。

坂本:ああ、いまおかさんは考えてない。

―普通はむしろ(あからさまなズームなどは)避ける感じじゃないですか?

坂本:やってるよ、みんなビビーンって。わざとする人も、わざとしない人も同じじゃないの? 両方とも意識的にどっちかをただ選択してるだけだから。

―編集のリズムがかなり独特で面白かったんですけど。人物の心情や物語の流れとは違うところでカットをつないでいる感じがして。それで物語がわからなくなるわけではないですけど、どこか自然じゃないんです、テンポが。

いまおか:そんなこと考えてないよなあ。考えてたら撮れないよね。

坂本:考えて撮ってる人いるよ、(ミヒャエル・)ハネケとかそうだよ、きっと。

いまおか:まあそういう人もいるだろうけど。考えて撮ってもいいんだけど、予算とか日数とか考えるとかけてられないんじゃないか。その中でできることをやらなきゃいけないわけだから。

―坂本監督は『輪廻』(清水崇監督)を絶賛されていたそうですが、『ふ・た・ま・た』の撮り方はホラー映画に向いていると思いました。 

坂本:別にホラーに興味があったわけではなくて、『輪廻』はいい映画だなと思ったんですよ。お会いしたことないですけど清水(崇)さんは年齢も近いですし。めっちゃ盛り上がるでしょ? プロフェッショナルな仕事だなと思いましたよ。

―他に同世代で意識してる人はいますか?

坂本:イチローとか。同い年だから。

いまおか:よく言うよね。照準、高いよ。君は偉くなるよ。

坂本:イチロー、金城武、浅野忠信が同じ。松井(秀喜)とかは下なんだよ。映画監督だと1973年生まれはあんまりいないんだけど、1974年がハーモニー・コリン、1972年は清水崇さん…熊切(和嘉)君が1975年かな? 1976年だと山下(敦弘)君とか、向井(康介)君とか。

いまおか:自分と同い年のときに他人が何をやってたか、というのは気になるよ。自分と同い年のときに相米(慎二)さんは何を撮ってたか、とか。上を見てもきりがない、下を見てもきりがない。細々とやっていくしかないねえ…。

―いまおか監督の大きな夢は?

いまおか:いや、細々とずっとやっていくことだよ。

Imgp9069▼楽をしない

―8本の中で気になる作品はありますか?

いまおか:『草叢』(堀禎一監督)かな。苦しんでやってるところが…見方としてはおかしいのかもしれないけど。ホン面白いなあと思った。最終的には読んでないんだけど、映画を観て「ホン面白いなあ」と思って。

―先日、城定(秀夫)監督が『たまもの』に対してやはり「苦しんで作っている感じがするのが好き」とおっしゃっていました。

いまおか:俺はそんなに苦しんでないよ。でも最も苦しんだのはトシキさんのような気がするけどね。監督はすぐに楽しちゃうから、楽をしないようにどうすればいいのかを考えなきゃいけないよね、という話をしてて。だってさあ、佐々木ユメカの靴下(ストッキング)の色が違うって言ってリテイクしたんだよね?(『団地の奥さん、同窓会へ行く』) ありえねえだろ、そんなの。堀君はやっぱそういうところから学んでるんだよ。大阪行って大阪撮れてないじゃん、というのもやっぱそういうのがあるんだよね。

―特定の場所や風景を元に撮ることはありますか?

坂本:僕はありますよ。僕は東京東部で撮ってますけど、(意図的に)そうしようと思って撮ってますよ。多摩川の土手とかで撮ったりはしないです。違うんですよ、やっぱり。撮るときには順序立てていかないと見えないことが誰にでもあると思うんですけど、僕にとってはそれが、どこで撮るかというところなんです。

―それは脚本とほぼ同時ですか?

坂本:うん、もう端からあるよ。外国にいる人を撮ろうと思ったときには外国にも行きますよ。『たまもの』は銚子で撮ってるんだよね?

いまおか:それはたまたまだよ。だけど一応どっかで撮らなきゃいけないわけよ。あれは裏が海のボーリング場で、近県で行けるところはほとんどなかったんだよ。あのときはキャメラマン(鈴木一博)に「『ロゼッタ』(ダルデンヌ兄弟)みたいに」って言ったけど、全然関係なく撮ってた。(ダルデンヌ兄弟は)そんなにいいか?っていう感じはあるんだけど、作り方としてはこういうのもありなんだなとは思う。

坂本:まあでもみんなね、楽しないための抵抗の仕方が違うから。

いまおか:楽しなければ面白いものにつながるっていうのがどこかであるんだよ。

坂本:信じてるっていうかね。

▼監督と映画の距離

―登場人物の誰かに特別な思い入れがあったり、どれかひとつのキャラクターにはまったりしますか?

坂本:俺はないなあ、みんな同じ。

―それは観ていても感じました。どの人に対しても同じ距離感だなあ、と。

いまおか:でもほら、(『豊満美女 したくて堪らない!』('03)から )石川祐一さんの主役が続いたじゃない? 田尻(裕司)が言ってたんだけど「これ坂本だよね?」って。

坂本:それは観る人がそう思うだけであってさ、べつに撮ってる人間は意識してないと思うよ。ウディ・アレンも書いてたよ、「こういう映画を撮っていると僕自身もこういうことをやっていると思われるけど、べつに僕はあんな女性も知らないし、映画を撮るにあたってそういうキャラクターを作ってるだけです」って。

―自分の中に全くないキャラクターやエピソードでも撮れますか?

坂本:どうなんでしょうかそれは? 僕にもよくわからないですけど。

―自分が全く関わっていない脚本とか。

坂本:うーん、いきなりホンを貰って撮ったことがないからあれだけど…その中で見つけようとするから。見つかればべつにいいわけで。

いまおか:このホンのテーマはどこから始まったんだっけ?

坂本:僕のおばさんのよっちゃんを撮りたいなと思って。

―映画を観るときには何が一番気になりますか? シナリオとか、ストーリーとか、キャラクターとか…

坂本:まあそういうふうに言われると…監督かな。俺はもう映画の向こうにいる監督を気にして観てるよ。

―それはご自身が監督になる前からですか?

坂本:うーん…どうなんだろうね。でも誰が何を作ったか、ということだなあ、やっぱり。映画を観るってのは。

いまおか:俺はあんまないんだよね。俺はキャラクターかな。やっぱどんなにホンや演出がよくても映ってる人がだめだったらだめだろうしなあ、とか。

▼岡田准一はかっこいい

―ピンク映画とは関係なく撮ってみたい人は?

坂本:そりゃあいるよ、渥美清とか。だって渥美清すげーんだよー。あとキルスティン・ダンストとか、可愛いから。

―また大きく出ましたね。話が急にワールドワイドに…

いまおか:俺、岡田准一。『花よりもなほ』(是枝裕和監督)の予告観てたらめっちゃかっこよかった。

坂本:ああー、かっこいいなあ。岡田君かっこいいよね。最近のは何観てもいいよね『東京タワー』とか。

▼自棄のエンターテインメント

―ピンク映画のよさってなんでしょう?

坂本:いいとこある?

いまおか:うーん。

坂本:だけどね、やっぱり「恋愛映画」でくくられるピンク映画を撮ってちゃだめだと思った。

いまおか:昨日も神代(辰巳)さんの映画を観ててね、自棄になってる感じが見えるんだよ。41歳でデビューして4年間ほされた後で撮るとなったら、ガチガチにやるか自棄になるかどっちかしかないんだよ。そのときに自棄になるほうを選んでるって感じが…そういうのが観たいなって思う。ポレポレ東中野の(支配人の)大槻さんと話してたんだけど、今ドキュメンタリーみたいなものはほとんどないものとして扱われてるらしいんだよ、何をやろうと。だったらもう自棄になって撮っちゃおうかみたいな空気があるんだって。ピンクにとっても(どうせ)無視されてるんだったら「知らねーよ!」みたいな空気があるんじゃないかって。自棄になるって結構いいんだよ、元気になるっていうか。上手くいくときもそうでないときもあるけど、土壌としてピンクを支えてるのは、自棄のやんぱちみたいなところにあるっていうかさ。それは面白いなあと思うんだよね。エンターテインメントってそこなんじゃないかって気がすんだよね、他人を楽しませるっていうのは。自棄になってるっていうのはエンターテインメントだよ。なかなか観られないよ、それは。ちょっとメジャーにいくと自棄にならない仕組みがやっぱあるじゃん。

坂本:…で?(笑)自棄のやんぱちを観に来てくれってことか。

▼いまおかさんとはつき合いたくない

―お二人と共に“ピンク七福神”のメンバーでもあり、今回は二作が上映される田尻監督にメッセージを。

いまおか:田尻いいよね。

坂本:僕はもう田尻さんの人生を応援してますよ。たとえ田尻さんが映画を辞めても僕は田尻さんの味方ですよ。

いまおか:いや、田尻はいいよ。田尻は素晴らしいよ。「バカでいいんだ」ということを一番実感させてくれる人。田尻とは獅子プロ時代から15〜6年かな? 変にしつこかったり打たれ強かったり、本人は自覚してないんだろうけど…。

―女池充監督は、「自分には坂本の映画は撮れない」とおっしゃっていましたが?

坂本:俺だって女池さんみたいな映画は撮れないよ。みんなそうでしょ。

いまおか:いや、でもそれは特に、だろ? 特に俺らの周りで言うと、坂本のが一番わからないってことなんだよ、そういう意味では。届かないっていうか、手が周らない…背中の(自分では)洗えない場所みたいな感じなんじゃないの?

坂本:そんなことじゃないんじゃないの? 洗えない部分ってみんなあるじゃん、洗いたくない場所とか。

いまおか:いや、坂本はかなりおかしいよ、自分では意識してないだろうけど。

―遠慮のない人柄な感じはしますよね。嘘がない、ということですけど。

坂本:え、それどういうこと? そうかあ…やっぱもっと気を使えるようにならなきゃだめかなあ…

いまおか:でも俺が女だったら絶対に坂本とつき合わない。

坂本:だけどつきあう人がいるっていうこの世の中の受け皿の広さ、これは素晴らしいよね!

いまおか:色んな人がいるからね。

―お互いにつき合いたくないと思う理由が、きっとそれぞれのよさなのでは…

坂本:俺だっていまおかさん嫌だよ。5年ぐらい一緒に住んでたけど、どうしていまおかさんとつきあうのかわけわかんねえよ。

いまおか:色んな人がいるんだよ。

坂本:俺はそんなんじゃないよ。おかしいなと思うよ、いまおかさんとつきあうなんて。

いまおか:楽だよ?

▼女子が好きです

―ではそんなお二人から、これから観に来てくれる女子の皆さんへ…

坂本:僕は本当に女子が好きです。女子のことしか考えてません。

いまおか:嫌いなんだけど、なしじゃいられないんだよ。

坂本:強いて言うならさ、世の中の不幸は女子と男子しかいないことだよ。もしあと3つぐらい性別があったら、かなり上手くいくと思うよ。浮気の概念なんてなくなると思うよ。ふたつの性しかないことが幸せであり、不幸でもあるんだろうけど…単純に僕らは男から見た女子しか描けないわけですよ、それがある意味武器でもあるわけですよ。それを飛び越えてやることは僕は不可能だと思ってるし、そんなことをしてもしょうがないと思ってるから。

坂本・いまおか両監督の話を聞いていると、本当に二人の人柄がそれぞれの映画そのものだという気がします。それはこのインタビューを読んだ方も感じられたのではないでしょうか。映画は監督そのものではありませんが、作っている人間が透けて見えるからこそ危ういし、面白いのです。そしてこのような監督たちが一体どんなピンク映画を撮っているのか、是非その目でお確かめください!

(インタビュー・構成:那須千里)

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2006年5月 6日 (土)

R18リレーインタビューVOL.2【速水今日子編】

お待たせしました、リレーインタビューの第二回目は『草叢』主演の速水今日子さんです。せっかくなので、速水さんが女将をつとめる新宿・ゴールデン街のお店「夢二(別館)」におじゃましてきました。飲み屋のカウンターで隣席の会話を聞いているような気分でどうぞお楽しみください。なんとこの日はサプライズゲストも登場。さて誰でしょうか…?

R18_hayami0102■速水今日子さん:『草叢』(Aプロ)

昨年末に一周年をむかえたという「夢二(別館)」。その名の通り大正モダン風のレトロな雰囲気が漂う店内には映画のポスターやチラシが貼られ、何気なく飾られた千代紙の折り鶴や色ガラスのグラスなど女子的ポイントもかなり高いです。自ら着つけた和服姿がよく似合う速水さん自身にも、どことなく竹久夢二の描く女の人の面影があります。

▼ピンク映画との出会い

速水:きっかけは瀬々さん*1の作品だったんですが、親が厳しいこともあってすぐには出演の決心がつかなかったんです。でもホン(脚本)を読ませてもらったらすごくよかったので、一晩考えさせてもらって次の日に「わかりました、やりましょう」と。それには結局出なかったんですけど、一晩考えたことで踏ん切りがついたのね。それから色んな人のホンを読むようになって、いいホンがあるなら出よう、と。

*1:瀬々敬久監督。京都大学哲学科卒業後、作家性の強い作品群でサトウトシキらとともに“ピンク四天王”と呼ばれる。監督作に『MOON CHILD』『肌の隙間』など。

―デビュー作は『花井さちこの華麗な生涯』(女池充監督)ですよね?

速水:その前の『不倫妻 情炎』のときにも一度お話をいただいて。雪のシーンがあって撮影は二月だと言われたんだけど、ちょうど舞台が入っていたのでお断りしたんです。女池さん*2とは電話でしか喋ったことがなかったんだけど面識はあって、その後にちゃんと事務所を通してオファーがきて、「今度はコメディですか?」みたいな。 

*2:女池充監督。2005年に『花井さちこの華麗な生涯』『ビタースイート』が連続公開され、ポレポレ東中野でピンク映画が上映される先駆けとなる。

▼関西人ならでは

―『草叢』では、夫の浮気や年下の男性との逢瀬を重ねながらも何喰わぬ顔で日常を送る人妻役です。本心のわかりにくいキャラクターや作品の世界はすぐに理解できましたか?

速水:あれはね、関西人でないとわからないと思う。私はわかるのよ。*3関西人は悲しいときに笑ってるの。上手く言えないんだけど、喜怒哀楽が激しいし、悲しんでる姿をあんまり他人に見せない。…このあいだ目の前で交通事故を目撃したんだけど、涙は出ないんですよ、そのときって。とにかく「どうすんの?どうすんの?」と言ってて。(被害者の)手をずっと握ってたんだけど、明らかに死んでるのにまだあったかいの。そのうち死後硬直が始まって動かなくなったの。動かなくなって初めてぼろぼろ涙が出てきた。東京の人がどこで泣くのかはわからないけど。

*3:速水さんは大阪出身。

Imgp9062ここで、『草叢』で速水さんと共演した俳優の吉岡睦雄さん*4、城定秀夫監督*5が偶然にも来店。当然のごとくお二人にもゲストに加わっていただくことに。

*4:吉岡睦雄。『したがる先生 濡れて教えて』('02/監:いまおかしんじ)でデビュー。2005年ピンク大賞ベスト10、男優賞受賞。今回の特集上映でも8本のうち4本に出演するなど人気急上昇中(?)。
*5:城定秀夫監督。2003年『味見したい人妻たち』でピンク大賞ベスト10第三位、新人監督賞受賞。近作にVシネマ「くりいむレモン 夢のあとに」など。吉岡睦雄の出演作も数多く演出。

―堀(禎一)監督との仕事はいかがでしたか?

速水:最初は別の脚本を渡されたんだけど、そのあとで『草叢』のを読ませてもらったらこっちのほうが全然よかったからそう言ったのね。

―どんなところがよかったですか?

速水:情緒のあるところですね。でも第一稿は結末が(完成版とは)違ってて、私と吉岡君が一緒に逃げるの。

―観ていて(ラストは)ひょっとして二人で逃げるのかな、と思いました。

吉岡:あと、(伊藤)猛さん*6が坊主になって、(速水さんに)「きらい、じゃないよ」*7って言うの。

*6:伊藤猛。佐藤寿保監督、瀬々敬久監督などの数々の作品に出演しているピンク映画界のベテラン俳優。
*7:『きらい、じゃないよ』('91)…『スローなブギにしてくれ』('81)などの脚本家・内田栄一が60歳にして初めて監督した8ミリ映画。伊藤猛さんは同作品に主演。

速水:完成版のラストはまた破天荒だよね、違う編集にしてくれて。でも初号を観たときに「え、ここで終わり?」って思ったよね?(ラストの変更を事前に)聞いてた?私は聞いてなかったな。

吉岡:僕は(助監督の)一平さんから初号の前に電話をもらって「吉岡さん、あんなに頑張りましたけど、ラスト切られました…」みたいなことを言われました。

速水:だって伊藤さんなんか坊主にした*8のに映ってないでしょ。

*8:劇中で浮気相手と別れて帰ってきた伊藤さんに、速水さんが「坊主にして」と言うシーンがある。

―吉岡さんとの共演は?

速水:面白かった…面白かったよ(笑)。

吉岡:……。

城定:現場で暗いんですよ。

速水:そう、現場で暗いの。私も控え室では寝る、という感じで。

吉岡:でも先輩の女優さんで控え室で寝てくれる人ってすごいありがたいんですよ。

速水:いつだっけなあ、吉岡君が「いやー(相手が)速水さんでよかったですよー」って言ってくれるわけ。で、「え、そうなの?ありがとう!」と思ったら「控え室であんなに寝てくれる楽な女優さんいませんでしたよ」だって。ひどくない?

城定:気つかうんだよね。

吉岡:そうそう、気つかっちゃうじゃないですか。最初から仲良ければ大丈夫ですけど初対面とかだと…(控え室で)眠いんだけど、相手は先輩だしどうしようーと思ってたら(速水さんが)ガー寝てくれて。

速水:すごい眠かったよね(笑)。

吉岡:かなり眠かったですね(笑)。

速水:だって大阪日帰りだったよ、日帰り!

―え!?

▼堀監督、欠席裁判

速水:それも急に決まったの。もう宿もとってあったのに(堀監督が)「いや、明日も天気悪そうだから」って。

吉岡:いや、あのときかっこよかったですよね。淀川を撮る予定だったのに撮らなかったから、猛さんも堀さんに「せっかく大阪まで来たんだし撮れよ撮れよ!」って言ったんです。そしたら堀さんが「いやもう、撮らないんです。僕は決めたんです!」みたいな。それで「おー、かっこいいなー」と思って。あと、堀さんの名言がありまして。あるシーンの撮影前に僕のとこに寄ってきて「ここは、勝負所だ。お前は、一日に一回しか力を出せない役者なんだ。ここが出しどころだ」みたいなことを言われたんですよ。「あー僕(一日に)一回しか出してないですかー?」って聞いたら「いや、一回ぐらいでいいんだよ。速水さんだって、二回ぐらいだよ」と言ってました(笑)。自分的にはね、十回ぐらいは出してるつもりなんですけど…。

―それで大阪ロケなのに、いわゆる大阪らしい光景がほとんど出てこないんですね。

▼ピンクは真面目

―速水さんから見た吉岡さんの魅力とは?

速水:吉岡君の魅力ですか?まったくないですね!

吉岡:……。

速水:ダメダメじゃーん、みたいな。

吉岡:一応なんか俺もいいとこありますよ…

―敢えて言うとしたら?

吉岡:うん、敢えて敢えて(笑)。

速水:クソ真面目(笑)。芝居に対してね。普段は真面目じゃないけど。

城定:うん、偉いよ。

速水:伊藤(猛)さんもそうなんですよ。みんな真面目だなーと思って。

▼ちょっといい話

吉岡:朝に撮影が終わって、またお昼に渋谷で集合というときがあったんです。雨が降ってたんですけど、向こうから黒いサングラスをかけた男の人が傘をさして、その下に女の人がいて“マネージャーと女優”らしく歩いて来るのが見えたんですよ。誰かと思ったら、「あれー速水さん?」みたいな。着いたら男の人はサーッと去っていって、速水さんは「おはよう」という感じで。もう呆然として、「こわい人やー」と思った。

速水:その前の日に大阪の撮影から帰ってきて、私もけっこう役に入っていたので「今は吉岡に夢中なの!」みたいな感じだったの。そしたら(彼が)拗ねちゃって。彼は仕事してるから会う時間もなくて「じゃあ渋谷まで送らせてくれ」と電話があって。でもすごく嬉しかったのは、(『草叢』の)初号試写を一緒に観たんだけど、その前に大げんかしてて、店があるから打ち上げにも行くなと言われてたの。そうしたら打ち上げ会場に行く前に彼が手を握ってきて「今までの映画の中で一番よかったよ」って言ってくれたの!そこで「打ち上げ行ってもいい?」って聞いたら「主役だからな」って。

吉岡:なんか、途中からサムイ話に…

―いえ、いい話です。(きっぱり)

吉岡:う…。あ、俺、「あんたのそういうところ好きやー!」っていうシーンはよく覚えてますね。

速水:私もすごい好きな台詞があったんだけどな…「拗ねて可愛い歳でもない」。

▼ピンク映画にひと言

速水:くさいんだけど(笑)、ほんとに熱いなあって。『花井さちこの華麗な生涯』の現場のときも「まあ、ピンク映画でしょう?」みたいなノリで入ったら、女池さんが「役のイメージはこうこうこうで…」とちゃんと説明してくれて、演技をつけてくれて。これだけ一生懸命作ってるんだからできるだけ色んな人に観てほしいし、もっと観やすい環境になればいいと思う。だからこういう特集上映は嬉しいですね。

幻のラストや撮影の裏話などまだまだ面白いエピソードがたくさん出てきそうでしたが、今回はこのへんで。『草叢』は上映作の中でも日活ロマンポルノの系譜に属するような正統派のドラマです。残念ながら画面には映っていない淀川や大阪の気配が思わぬところで見つかるかも。速水さんのお店にもぜひ足を運んでみてください、話の続きが聞けるかもしれません。

(インタビュー・文:那須千里)

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「夢二(別館)」
住所:新宿区歌舞伎町1-1-10 ゴールデン街
TEL:03-3209-3471
営業時間:午後8時〜午前2時
*お店のサイトでは速水さんの日記も読めます!

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2006年5月 3日 (水)

R18リレーインタビューVOL.1【佐々木ユメカ編】

突然ですが、今日から「R18 LOVE CINEMA HOWCASE Vol.1」のリレーインタビューが始まります。全8本のラインナップをより楽しんでいただくため、監督やキャストの皆さんにピンク映画の魅力を語っていただきます。20日の初日までリレー形式で順次お届けしていきます。記念すべき第一回目は、チラシや予告篇にも出演されている、今回のイメージキャラクターともいうべき女優の佐々木ユメカさんからスタートです!

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■佐々木ユメカ:『団地の奥さん、同窓会へ行く』『草叢』(Aプロ)/『痙攣』(Dプロ)

―予告篇*1の撮影はいかがでしたか?

ユメカ:すごく自然な雰囲気で、気負わずにラフでいいんだーと思いました。仕上がりを見たときはもっとポップな感じかと思ってたら、しっとりとした感じだったのがちょっと意外でしたね。

*1:松江哲明(監督)、カンパニー松尾(撮影)による映像は、ヒールで颯爽と街を歩く仕事帰りのOLをイメージして作られたもの。会場であるポレポレ東中野への行き方がよくわかる、ということでも密かに評判になっています。

―今回の特集上映についてどう思いますか?

ユメカ:(ピンク映画館以外で作品が上映されるのは)初めてじゃないんだけど、オールナイト上映とかやると、意外に女の子が来るんだなーと思う。地方に住む同級生がWOWOWとかで観て「ユメカ出てたねー」と言ってくれるんだけど、ピンク映画のつもりで観てないんですよ。普通の映画を観る感覚なんです。だからピンク専門館だと女性はやっぱり行きにくいけど、こういう(一般劇場での)特集上映はいいきっかけになるんじゃないかな。

―ピンク映画に出演したきっかけは?

ユメカ:Vシネの仕事をずっとやってたんですけど、獅子プロ*2で面接を受けて…最初が(いまおかしんじ監督の)『デメキング』だったんです。現場に行ってみたら金髪のオヤジ*3がいるから、まさかこの人ではないだろうと思っていたらそれが監督だった(笑)。共演者の川瀬(陽太)くんから「君は、ピンク映画は初めて?」と聞かれて、「ああ、これってピンク映画だったんだ!」と気づいたぐらいで。現場に入ってみたらフィルムはガラガラ回ってるし、なんか今までとは様子が違うなーと。

*2:ピンク映画の製作プロダクション。滝田洋二郎、いまおかしんじ、田尻裕司らを輩出する。
*3:当時、いまおか監督は金髪だった。

―ピンク映画とそれ以外の現場の違いとは?

ユメカ:やっぱり映画を撮ってるんだなという感覚が一番ありましたね。雰囲気なのか、監督や役者さんの心持ちなのかはよくわからないけど。VシネだったらNGひとつにしてもまあもう一回やればいっかーというノリだったのが、絶対に失敗できないーみたいな。だから余計にNGを出してしまったり。演じる上では、芝居をしているということに関しては変わりませんけどね。

▼『団地の奥さん、同窓会へ行く』(サトウトシキ監督)

ユメカ:(キャラクターとしては)こんな嫁であればいいなという意味で共感できましたね。あとは靴のヒールにぽとんと雨のしずくが落ちてくるところが映像として鮮明に残ってます。(ビデオパッケージも足のアップになっている)テーマはあそこじゃないかと。

―トシキ組の撮影は過酷だと聞きますが?

ユメカ:トシキさんとは何回かやってたんですけど、いわゆる主演というのは初めてで。川ちゃん(川瀬陽太)*4とも夫婦役は初めてで。ちょうどこのチラシのカットに映ってるシーンは一連の芝居が全部ワンカットだったんですよ。台詞も多いしワンカメ長回しで4分ぎりぎり。だからワンシーンの撮影に12時間かかりましたもん。テイクだけで言ったら何十回とやってますよ。だんだん集中力もきれてきて「私のせいでみんなが寝られてない!」と思うともう自分も真っ青で(笑)。

*4:川瀬陽太。ピンク映画界を代表する男優のひとり。『たまもの』(いまおかしんじ監督)、 『言い出しかねて』(後藤大輔監督)にも出演。

―これだけ粘るのはやはり他の組ではないことですか?

ユメカ:んーまあ多分(トシキさんが)一番粘られるかなという感じ。という意味では──粘るっていうよりは意思が強いというのか意地が悪いというのか──こだわるのは女池さん(笑)。すごいいい意味でなんですけど。自分の軸がしっかりしてるから、好きなことをさせるがためにどうしてもずれていくというか。

―同窓会でいきなり絡みが始まるシーンはかなりおかしかったです。

ユメカ:あり得ないなと思いましたね。超真面目なのとギャグをやってるののコントラストがすごくて。

―大真面目にギャグをやってるという感じですよね。「止めてよ!」と嫌がっているけど、もっと本気で抵抗すればできるだろう!と。あの芝居はけっこう難しかったのでは?

ユメカ:そうですね、あそこも結構何度も繰り返しやってて。机の上に倒されるというので割と何回も身体を打ってるからだんだんアザになってきて、衣装ものびてきて。ブラジャーなんかあまりに引っ張られすぎて「ブラジャーの機能果たしてないだろう!」と。

▼『痙攣』(田尻裕司監督)

ユメカ:普段ピンクではリハーサルはしないんですけど、このときは田尻さん*5から申し出があって、四日間みっちりやりました、稽古場借りて。

*5田尻裕司監督。『OLの愛汁 ラブジュース』をはじめ叙情的な作風で女性からの人気も高い。2005年『孕み-HARAMI-白い恐怖』で一般映画デビュー。

―田尻監督はどのような人ですか?

ユメカ:田尻さんはすごく気持ちよくさせてくれる監督!褒めるし、何より気を使ってくれるし。私もわりと男っぽいから撮影の合間とかに現場で裸で放っておかれてもまあ大丈夫ですよーって感じなんだけど、「そんなのは絶対よくない!」と上着をかけてくれたり。絡みのシーンについては『眩暈』*6より具体的な指示がありましたね。「ちょっと僕がやるから」って言って自分でやってみせてくれたり。

*6:『不倫する人妻 眩暈』(2002年公開)。田尻裕司監督、佐々木ユメカ主演。

―町田ひらくさんの漫画が出てくるんですよね。

ユメカ:あー、「地震がきたら本棚が…」*7とか言ってたような。

*7:田尻監督は漫画好き。『かえるのうた』(いまおかしんじ監督)のきょうこ(平沢里菜子)の部屋に出てくる漫画は全部「田尻文庫」だそう。

―『団地の奥さん、同窓会へ行く』『痙攣』は主演、『草叢』は助演での出演ですが?

ユメカ:これはもう個人的なことなんですけど、堀(禎一)*8さんのにはうちの妹*9も出てたから「妹がお世話になったなー」みたいな。あとこの前いまおか監督の最新作(『おじさん天国』)にもちょっと出たんですけど、現場がすごくイカ臭かった(笑)。「お前もとうとうこの域まできたか」とか言われたんですけど…いまおか監督、次は普通の人間の役でよろしくお願いします!

*8:堀禎一監督。今回は『草叢』が上映される。佐々木日記さんの出演作は『宙ぶらりん(=SEX配達人 おんな届けます)』('03)。
*9:佐々木日記。ユメカさんの実妹。『手錠』('02/サトウトシキ監督)などに出演。

―女性から見たピンク映画の魅力とは?

ユメカ:最初はやっぱり抵抗があるかもしれないけど、観てしまえば「なーんだ」みたいな。ピンク映画だから濡れ場がついてくるのは当然だけど、予算も時間の制限も厳しい中でいかにしんどい条件でやっているか、というのが逆に面白かったりするんじゃないかな。楽しめる要素はいっぱいあるので、これで間口が広がればいいなーと思います。

―女性だからこそ、他の女の人の裸や絡みを観たいっていうのもあると思うんですよね。もちろんそれだけではないけれども、逆にそれを自然に堂々と観に行ける環境づくりという意味でもいいかなと。「フィールヤング」*11などの女性コミック誌を女の人が読むような感覚じゃないでしょうか。

ユメカ:その映画版みたいな、ね。

*11:祥伝社の女性向けコミック雑誌。これまでの執筆陣に安野モヨコ、岡崎京子、楠本まきなど。

もともとは男性向けに作られていたピンク映画ですが、最近では女性を主役に、美しく撮ろうとしているものがたくさん見られます。恋愛と性の切っても切れない関係、男女がつきあっていく上では当たり前のことをジャンルとして描けるのはピンク映画ならでは。男性の監督による女性観がリアルに感じられるところも注目です。次回もお楽しみに!

 (インタビュー・構成:那須千里)

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2006年1月25日 (水)

インタビュー その4

いよいよあと3日!
映画を観た方の感想やインタビューなど、まとめてみました。

ムービーウォーカー
http://www.walkerplus.com/movie/report/report4194.html

毎日インタラクティブ
http://www.mainichi-msn.co.jp/entertainment/cinema/news/20060113org00m200043000c.html

film-navi (関連ブログなどを集めて紹介しています)
http://www.film-navi.com/02/134.html

東京近郊にお住まいの方は急いで!27日までです!!

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2006年1月23日 (月)

インタビュー その3

INTROサイトで、インタビューのつづきがアップされました!http://www13.plala.or.jp/intro/Contents/Interview/interviewindex.htm

今回は、「濡れ場の演出について」など、よりディープな内容。いまおかワールドの徹底追求編です。

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2006年1月19日 (木)

インタビュー その2

ニフティシネマトピックスで記事がアップされました!

○いまおかしんじ監督インタビュー
http://www.cinematopics.com/cinema/topics/topics.php?number=846

○初日レポート
http://www.cinematopics.com/cinema/c_report/index3.php?number=1782

一度観た方も、まだの方もお友だちなどお誘いあわせの上お越し下さい!

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