映画『たそがれ』について。

2008年2月 8日 (金)

『たそがれ』イベントスケジュール(最新版)

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告知で失礼致します。映画『たそがれ』期間中のイベントスケジュール(レイトショーのみ)が決まりましたので、ここにお知らせ致します!

2月16日(土)スタッフ&キャスト舞台挨拶 ※上映前
2月17日(日)特別上映『金鮎の女』(監:いまおかしんじ/23min) ※上映前
2月18日(月)特別上映『おばあちゃんキス』(監:井口昇/24min) ※上映前
2月19日(火)特別上映『金鮎の女』 ※上映前
2月20日(水)特別上映『おばあちゃんキス』 ※上映前
2月21日(木)音楽担当:ビト・ミニライブ ※上映後
2月22日(金)特別上映『おばあちゃんキス』 ※上映前
2月23日(土)いまおかしんじ×向井康介(脚本家) ※上映後
2月24日(日)特別上映『金鮎の女』 ※上映前
2月25日(月)特別上映『おばあちゃんキス』 ※上映前
2月26日(火)特別上映『金鮎の女』 ※上映前
2月27日(水)特別上映『おばあちゃんキス』 ※上映前 トークショー:いまおかしんじ×森下くるみ(女優)※上映後
2月28日(木)トークショー:いまおかしんじ×岩井志麻子(小説家) ※上映後
2月29日(金)いまおかしんじ舞台挨拶+ビト・ミニライブ ※上映後

ゲスト詳細等は追ってお知らせ致します。
皆様のご来場、心よりお待ちしております。

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2007年12月12日 (水)

『たそがれ』/スタッフ・キャスト

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■STAFF
製作・配給…国映 新東宝映画  製作…Vパラダイス
監督…いまおかしんじ|脚本…谷口晃
企画…朝倉大介|プロデューサー…衣川仲人、森田一人、臼井一郎
撮影…佐久間栄一|編集…酒井正次|録音…シネキャビン|助監督…大西裕

■CAST
鮒吉…多賀勝一
和子…並木橋靖子
貴子…速水今日子       
孝夫…吉岡研治
勝子…小谷可南子       
孝太郎…福田善晴
忠二…高見国一        
俊夫…山田雅史
康介…谷口勝彦        
石屋の妻…高槻ゆみ
スーパー店長…河村宏正    
専務…前川和夫
藤田…玉置 稔        
覗き老人…横田直寿
医師…谷 進一        
親方…デカルコ・マリィ

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『たそがれ』/ストーリー

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左官職人の鮒吉は65歳になるが、病身の妻をよそにスナックのママとの情事に溺れ、スカート捲りまで楽しむという天真爛漫な男。ある日、鮒吉は同窓会に出席し、仲間の孝太郎や忠二と盛り上がった。彼らは中学校時代、深夜に石屋の家の裏庭に忍び込み、新婚夫婦のセックスを覗き見たことを回想した。そこへ和子が遅れて会場に現れた。鮒吉は当時彼女に思いを寄せていた。和子は夫と母を亡くしたという。鮒吉は和子に携帯電話の番号を渡して別れた。鮒吉が妻智子の見舞いに行くと、智子は鮒吉にこっそり頼み事をした。鮒吉は頼まれたとおり、彼女の股間を優しく愛撫してやった。それから間もなく、智子は息を引き取った。孝太郎と忠二は鮒吉を元気づけるために彼をストリップへ連れ出し、酒を飲み交わした。翌日、突然和子から電話が来る。和子は鮒吉と会うとかつての思いを告白した…。

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『たそがれ』/解説

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いまおかしんじの最新作は、還暦を過ぎた男女の恋を描くアンチエイジングピンク映画だ。あまりにもオーソドックスなフォルムのため、近作『かえるのうた』(05)のおおらかな肯定力や、『おじさん天国』(06)のめくるめく不条理を期待する向きは肩すかしを食うかもしれない。しかし老いらくの恋を見つめる監督のまなざしは、いつも以上に心優しく温かい。人情の機微を掬いあげる演出は円熟の境地に達していると言っていい。

 「老人の性」が主題と聞いて敬遠するのは間違っている。いくつになっても人間は能力と相手がある限り恋をし、セックスをする。監督は若い男女の性愛を描くのと同じ、「どうってことない」という風情で彼らの性に寄り添っている。そこにのぞき見的な、あるいは“ピンク映画”的ないやらしさはない(念のため申し添えておけば、ヒロインを演じる並木橋靖子の裸はさすがに張りや瑞々しさには欠けるものの、優しく包容力があり、不思議な郷愁をすら喚起する)。

 後半、鮒吉は和子を強引にラブホテルへと誘い込む。となれば、着衣を脱ぎ捨て、やみくもに行為へと突き進むのがピンク映画の倣いである。だが本作では法外な時間を費やし、行為に踏み切れない彼らの心もようを丹念に描出する。ベッドに横たわった和装のヒロインが、恥じらいながら鮒吉に甘える姿のなんと愛らしいことだろう。鮒吉の股間に手を置きながらぽつりぽつりと呟くセリフの、なんと味わい深いことだろう。彼らにとっては、行為そのものよりも、行為にいたる過程そのものがもっとも尊いひとときなのである。アフレコによる声と唇の動きとの小さなズレが、人生に疲れ、世間から見捨てられた高齢者ふたりの寂寥をいっそう際立たせる。少なくとも筆者は、スクリーンでこういうかたちの情緒に接したことは一度もない。
ついに愛を交わした後ヒロインは陶然と言う。

「わたし、今晩のことで残りの一生生きていける」

 その一生とはあと何年あるんだ。この夜の記憶を、彼女はどんなときにどんな表情で追想するんだ。手を振りながら観客の視界から消えてゆく彼女の小さな背中に、心を揺さぶられない者などいまい。確かにふたりは余生を生き抜くのに十分な愛の記憶を手に入れた。しかしこの映画においては複数の人物が癌に罹患し、あるいは物故している。死はもはや日常と化している。鮒吉や和子もそう長くはないだろう。

 監督はそんなクソリアリズムにはあくまで背を向け、明るく陽気なエンディングを用意する。その優しさは高齢者にとってむしろ酷だが、現在42歳の監督にとってはそれが加齢という現実に対する精一杯のアンチテーゼであり、年老いた人々へのエールだったのかもしれない。

 脚本を担当した66歳の新人・谷口晃による当事者ならではのリアリティと、なるべく低い目線で、声なき者の声に耳を傾ける——そんないまおか監督の創作姿勢が共振し、本年度を代表する見事な人間ドラマに仕上がった。

Text by 膳場岳人(脚本家・映画ライター)

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