守屋文雄の日記

2006年12月10日 (日)

見た後に笑顔になれる映画らしいです

みなさま、おはようございます。
「おじさん天国」脚本・守屋文雄でございます。
昨晩は、たくさんのお客さんと共に初日を迎えることが出来ました。
劇場を出てくる人たちの顔がみんな笑っていたよと、大目象一さんという嘘みたいな素敵な名前のキャメラマンの友達が教えてくれました。
どうもありがとうございます。
劇場まで足を運んでいただいたお客さん、久しぶりにお会いした「おじさん天国」オールスターズのキャストの方々、脚本を映画にしてくださったスタッフの方々、昨年の企画からこの公開まで「おじさん天国」にかかわってくださった方々。上映のあと、家に帰った方、仕事だった方、遅くまで飲んだ方、今も飲んでいる方。
すべての方に感謝いたします。
世界に感謝いたします。
「酒飲むために映画撮ってる」
いつかどこかで何回か聞いたかもしれない、日本か外国かどこかの映画監督か誰かの言葉を、長年「そんなわけねえじゃねぇか」と思ってきましたが、昨日、その気持ちが分かった気がいたします。
なんだか、千秋楽の挨拶のようになってしまいました。
「おじさん天国」は今日もやっております。
明日もやっております。
毎日やっております。
イベント盛りだくさんでやっております。
大目象一さん曰く、見た後に笑顔になれる映画らしいです。
未見の方、是非劇場までお越しください。
お待ちしています。

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2006年12月 9日 (土)

いまおかさんのこと

「おじさん天国」の脚本がまだ出来上がる前。
いまおかさんに何冊かの本を貸していただいた。
「アオリイカ スーパーテクニック」
たしかそんなようなタイトルのDVD付きの本が一冊あったけれど、それ以外は映画の中身とは直接関係ないものばかりで、その中に村上もとかの短編集があった。
その短編集に入っている「99夏あたし15歳」という話はいい話で、帰りの電車の中でぼくは読みながら泣いた。
いまおかさんは、当たり前の話だけど、ぼくなんかよりもたくさんの台本を書いて来られた。その全てを読んだり見たりしたわけではないけれど、たくさんの台本を書いてきたということは、その数だけ喜んだり落ち込んだりしてきたのだろうと、台本を書くぼくは信じることができる。
いまおかさんに会うと緊張する。
それは、この秋に友達の沖田修一が監督した映画「このすばらしきせかい」のトークショーでいまおかさんに会ったときに、初めて言葉にして思った。
年上だとか、監督だからだとか、未だに台本が上がらないからだとか、いろいろ理由はつけられるけれど、たぶんどの理由もいい訳みたいなもので、緊張するものは緊張する。威圧感はないけれど、むしろ話をしているときはホッとしている時もあるのだけれど、ホッとしながらも緊張している。
ぼくから見たいまおかさんはそういうひとだ。
「アオリイカ スーパーテクニック」に付いていた付録のDVDは、まるで待ちきれなかったかのように荒々しく袋のミシン目が破り開けられていた。
そして後日、西伊豆へのロケハンに同行したとき、強風の中わずかな時間でイカを釣ろうとするいまおかさんの姿をぼくは忘れない。
その姿は、恐ろしいほどに近寄りがたかった。

いよいよ本日より「おじさん天国」公開です。
イカとか地獄とかおじさんとかセックスとかばっかりで、泣きどころなんてひとつもない映画ですが、観ている間はちゃんと我を忘れるかわいい映画です。
お時間のある方、どうぞ劇場までお越しください。
お待ちしております。

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2006年12月 2日 (土)

ハリウッド並

沖田修一がギャラを持ってきた。

「このすばらしきせかい」という映画がこないだ公開になった監督の沖田修一と、この秋、とある撮影のバイトをした。

それは大正琴の演奏会の撮影で、沖田とぼくで2台のカメラを回した。

1000人は入ろうかという巨大なホールで行われたその演奏会で、大正琴を演奏するおばさんたちのアップを嬉々として撮影する沖田の横で、ぼくはステージ全体を写す引きのカメラを担当した。

カメラを回しながら、沖田はニヤけたり噴き出したりしている。

おばさんのおもしろいアップが撮れたらしい。

ぼくのカメラは引きの画なので、あんまり面白くない。

悔しいからぼくも少しだけズームで寄ってみた。

派手な衣裳に身を包んだおばさんたちが、身体を揺らしながら、七色の照明の中で必死になって大正琴を演奏している。目を閉じている人もいる。

こんなおもしろい画を独り占めして、ずるいじゃないか沖ちゃん……。

こころの中でそう思っているうちに、拍手が鳴って演奏が終わった。

沖田修一がギャラを持ってきた。

大正琴の撮影のギャラのはずなのに、封筒の裏には「脚本料 5億」と書いてあった。

ハリウッド並じゃないか!

差し出した沖田修一は笑っている。

「シャマランなら、当然の如く受け取るぜ」

その目がそう言っていた。

ぼくも当然の如く受け取ることにした。

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2006年12月 1日 (金)

かえるのうたの思い出

明日から、いまおかさんの特集上映が始まる。

「かえるのうた」の試写の時。

試写室のある東映化学まで行くと、いまおかさんが入口の傘立てに腰を下ろしていた。

「お疲れ様です」

「おお」

と、傘立てに座ったまま動かない。

髪の毛もひげも伸び放題で、今思うとすこしだけ妖怪のようになっていた。

そのころ、ぼくは田尻さんが監督した「ヒモのひろし」の台本の直しで、頭を抱えていた。

頭を抱えたまま試写室に入って「かえるのうた」を見た。

見始めて、どのあたりから引き込まれたのか忘れたけれど、そのうち自分の台本の突拍子もないアイデアがたくさん浮かんできた。

おもしろい映画を見ると、自分はいつもそうなる。

ひとつ笑いが止まらない場面があった。

とにかくおかしくて、そのシーンが終わっても笑っていた。

まだ見ていないひとのためにそれは書きません。

未見の方、是非劇場でご確認ください。

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2006年11月30日 (木)

イカのこと

近所のデニーズに台本を書きに行く。

デニーズに行く途中には居酒屋があり「おじさん天国」を書いているころ、その店先の水槽の中では、いつもイカが泳いでいた。イカにしてみたら前後なのか上下なのかわからないけれど、イカは毎日水槽の中を行ったり来たりしている。

ある日、ぼくは水槽の前で長電話をしていた。

今日もイカは水槽の中を行ったり来たりしている。

すると、居酒屋の中からバイトの女の子が網を持って現れて、水槽の中のイカを捕まえはじめた。イカを食べるつもりだ。逃げ惑うイカはなかなか網に納まらない。無理矢理水面近くまで持ち上げられたイカは、勢いよく水槽から飛び出して、アスファルトの上を暴れまわった。

「イカが!イカが!」

女の子はイカを手掴みで捕まえようとするけれど、暴れるイカはなかなか捕まらない。そうこうしているうちに、イカは道路の端にある雨水の流れ込む穴に辿り着き、そのまま穴の中に落ちてしまった。

台本を書いているとほんとうにいろいろなことが起こる。

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2006年11月29日 (水)

夢のこと

「おじさん天国」のなかで、たかしとハルオが自分の見た夢について語るシーンが出てくる。自分は、映画の中で人物が夢や記憶を語るシーンが好きで、「おじさん天国」を書いているときはそれが特に面白いと思っていた。

なにがどう面白いのか。言葉にしようとしてもなかなか言葉にならなくて、同じところを堂堂巡りして頭がこんがらがってしまう。日常の中で他人の夢の話はたいていつまらないのに、どうして映画の中ではあんなに引き込まれるのか。はじまりはいつもそこで、いろんなことを考えて、いつもそこに戻ってくる。ばかなのだろう。

「おじさん天国」のなかのたかしとハルオの夢は、こたつでうつらうつらしている時に思いついた。

映画の中では、下元さんと吉岡さんが、見たこともないはずの夢について、一生懸命話をしている。

試写ではじめて見たとき、ぼくはやっぱり引き込まれた。

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2006年11月27日 (月)

打ち合わせの時間

おじさんのことについての台本を書こう。

それが決まっても「おじさん天国」の台本は全然まとまる様子を見せなかった。

おじさん・たかしの気ままな台詞だけがポコッポコッと浮かび、それをあてもなく書き止める日々だった。

「ちょっと会おうか」

いまおかさんから電話をもらって、新宿のランザンで待ち合わせる。

ランザンには映画関係者の人が多い。

「あ。どうも。ご無沙汰してます」

いまおかさんが頭を下げるたびに、横で小さくなって頭を下げる。

なかなか台本の話は始まらない。

コーヒーを飲みながら、映画の話、本の話、釣りの話。

「へぇ」とか「はぁ」とか言いながら、ほとんど黙って聞いている。

不意に台本の話が始まる。

「どう? 書けそう?」

見えないけど確かにあった緊張がふと緩むのか。言った後、いまおかさんは「いやあ……」みたいな、言っちゃった、みたいな、笑い顔をする。

おれも「いやぁ……」みたいな、言われてしまった、みたいな笑い顔をしている、のだろうか。

そこから台本の話が始まって、思いついたことを言ったり、黙ったり、する。

黙っている時、ランザンの窓から見える新宿の裏通りを見ていることが多い。

この間まで半袖の人もいたのに、もう、コートの人ばかり。

あっ。かわいい姉ちゃんが通った。

いまおかさんがタバコを吸った。

なにか、思いついたのだろうか?

そうではない。考えているのだ。や、考えていないのかもしれない。

おれもタバコを吸って、台本のことを考える。や、考えるフリをしているのか。

ときどき、それが分からなくなるときがある。

でも、フリでもなんでも考えることが大事で、ふとした時間に

「おや?」

というようなアイデアが生まれたりもする。

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2006年11月26日 (日)

ラーメン

結婚式の余興で踊る。

無敵のヅラを被って歌い踊りまくる自分の胃の中で、前日喰ったラーメンとさっきまで飲んでいた酒が一緒になっているのを想像すると気持ち悪い。

そんなことを考えながら踊っていたら、思い出した。

舌が痺れるくらいめちゃくちゃまずいラーメン屋があって、オヤジもめちゃくちゃ無愛想なのだ。

しかしなにか偶然が重なって、そのラーメン屋で何度かラーメンを食うはめになる。

はじめは残しているんだけれど、ある空腹の日、思わず麺を平らげ、スープまで飲み干してしまう。するとドンブリの底に秘密の暗号が書いてある。それを見た無愛想なオヤジがニヤリと笑って、秘密結社への入会を認められる……

そんなシーンを思いついたことがあって、「おじさん天国」の1稿目でそれを生かそうと試みた。

地獄の入口がラーメン屋で、ブクブクと泡立つラーメンを恐ろしいオヤジに注文もしていないのに出され、泣く泣く喰うはめになるハルオとリカ。残せば恐ろしい罰が待っている。

完食したハルオだけが、ドンブリの底に「地獄へようこそ」の文字を目にして、なにがなんだか分からないまま、割り箸を持ったまま地獄をさまよう……。

そんなシーンだった。

いろいろあって切ることになったけれど、割り箸を持ったまま地獄をさまようというのだけは、いまだになんだか面白くて、惜しかったなぁと思っている。

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2006年11月24日 (金)

マジック

我家のパソコンの上にはたくさんのお菓子のおまけが並んでいて、パーマンの1号からバードマンまで5人が並んで、その隣にトイストーリーのバズがいて、「用心棒」と「椿三十郎」の仲代達矢がひとりずついて、黒沢明がいて、ロダンの考える人の小さいのがいて、その隣に赤いマジックがある。赤いマジックには「どんなものにも書ける魔法のインキ」と、ほんとうに魔法のような字で書いてあって、「おじさん天国」に出てくる赤いマジックとたぶん一緒だ。

「おじさん天国」の中で女体にマジックで字を書くというのはいつ思いついたのか憶えてないけれど、日頃から自分は酔っぱらうと、友達の身体にいろいろな字やマークを書く。

憶えているのは、友達の腹に大きく「死」と書いて○で囲んだことで、友達は朝起きて、なんにも知らないまま我家を出て、電車に乗ってそのままバイトに行き、夜、家に帰って風呂に入ったときにやっと見つけて、

「ワアッ!」

と声をあげてしまったらしい。

その友達は高山くんという人で、「高山たかし」というおじさんの名前は高山くんから勝手にもらった。

たかやんありがとう。

「おじさん天国」ぜひ見に来てください。

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2006年11月20日 (月)

ケミストリー

テレビをつけたらケミストリーが出ていて見る。

いつまでたっても「やらされてる感」が抜けないこのふたり組は、歌っているときだけそれが無くなるのに気付く。たぶんぜったいCDを買ったり、コンサートに行ったりはしないけれど、テレビで歌ってたら、とりあえず終いまで聞いてしまうのはこのためかな、と思う。

カラオケに行きたい。

渡辺真知子の「カモメの翔んだ日」を久々に歌いたい。

この歌はすごい。イントロを聞くだけで、なにか気狂いじみたものが身体に流れ込んでくる。歌い方も自然と気狂いじみてくる。

この快感をなんとかしたくて芝居の台本を書いたことがある。

「おじさん天国」の一回目の打ち合わせのとき、その台本を持っていった。賞をもらった前のシナリオからずいぶん時間が経ったので、最近はこんなものを書いています、というつもりだった。

「ミルキー」というその台本の中で、少しだけ地獄のシーンが出てくる。

ほんとうはもっと地獄のシーンを書きたかったけれど、あんまり書くことがなくて、すぐに地獄からは帰って来てしまった。エンマ大王も出すことが出来なかった。だから、2回目の打ち合わせのとき、

「地獄に行こう」

といまおかさんが言ったときは燃えた。

また地獄に行ける。

エンマ大王も出せるかもしれない。

わくわくして仕方がなかった。

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