打ち合わせの時間
おじさんのことについての台本を書こう。
それが決まっても「おじさん天国」の台本は全然まとまる様子を見せなかった。
おじさん・たかしの気ままな台詞だけがポコッポコッと浮かび、それをあてもなく書き止める日々だった。
「ちょっと会おうか」
いまおかさんから電話をもらって、新宿のランザンで待ち合わせる。
ランザンには映画関係者の人が多い。
「あ。どうも。ご無沙汰してます」
いまおかさんが頭を下げるたびに、横で小さくなって頭を下げる。
なかなか台本の話は始まらない。
コーヒーを飲みながら、映画の話、本の話、釣りの話。
「へぇ」とか「はぁ」とか言いながら、ほとんど黙って聞いている。
不意に台本の話が始まる。
「どう? 書けそう?」
見えないけど確かにあった緊張がふと緩むのか。言った後、いまおかさんは「いやあ……」みたいな、言っちゃった、みたいな、笑い顔をする。
おれも「いやぁ……」みたいな、言われてしまった、みたいな笑い顔をしている、のだろうか。
そこから台本の話が始まって、思いついたことを言ったり、黙ったり、する。
黙っている時、ランザンの窓から見える新宿の裏通りを見ていることが多い。
この間まで半袖の人もいたのに、もう、コートの人ばかり。
あっ。かわいい姉ちゃんが通った。
いまおかさんがタバコを吸った。
なにか、思いついたのだろうか?
そうではない。考えているのだ。や、考えていないのかもしれない。
おれもタバコを吸って、台本のことを考える。や、考えるフリをしているのか。
ときどき、それが分からなくなるときがある。
でも、フリでもなんでも考えることが大事で、ふとした時間に
「おや?」
というようなアイデアが生まれたりもする。
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