映画を観ただけなのに、それを作った人をわかった気になってしまうときがあります。しかし当然ですが「映画=監督」ではありません。残念ながら、素敵な映画の作り手が必ずしも素敵であるとは限らないのです。逆に言えばたとえ素敵じゃなくても素敵な映画を作ることはできるのです。監督を見ればその人の作った映画がもっとわかるのでしょうか? というわけで、第三回目のゲストは坂本礼監督といまおかしんじ監督。かつては同棲していたこともあり、今回も仲良く二本立てのパートナーとなっているお二人の「Cプロ」特別対談です。
■坂本礼:『ふ・た・ま・た』(Cプロ)
■いまおかしんじ:『たまもの』(Cプロ)
▼ホンに負けてる
―坂本さんは『たまもの』はいかがでしたか?
いまおか:ダメっぽい感じだったね、最初。何て言ってたっけ?
坂本:貧乏くさい。いまおかさんの映画はチープだから。中身じゃなくて、外見ですよ、セットとか撮ってる場所とか適当だし…。
いまおか:俺はこだわろうと思ったらできるけど、キャメラマンがいいって言ったらいいから。
坂本:他人のせいかよ! でもまあ、そうだよね。
―逆にいまおかさんは『ふ・た・ま・た』は如何でしたか?
いまおか:(坂本は)自分で最初にホン(脚本)書くんだよね、原案というかプロットというか。
坂本:僕が書いたホンは大体いつも最初にいまおかさんが読んでるんですよ。
―(『ふ・た・ま・た』の)脚本は尾上史高さんですが、『草叢』とはまた全然違った印象ですね。
いまおか:感想忘れてるなあ…悪くないなとは思った。最初に読んでからずーっと読んでなくて、映画を観たの。いや、「尾上君頑張ったな!」っていう感じでしたね。でもなんか、あれだよね、ホン読んでないくせに、ホンに負けてる気がしたよ。
坂本:ああー…そうねー。
いまおか:決め台詞みたいなのが結構あるじゃない、そのときに必ずポーンて切り返してるけど「これ切り返さないほうがいいんじゃねえか?」とかさ。だからホンの通りに割とやっちゃってるのかなと思ってさ。
―脚本通りにやろうというつもりはあったんですか?
坂本:ホンの通りにやるよ、書いてあんだから。
―脚本に書かれていないことは撮らないんですか?
坂本:ホン通りでないことはないよ。結局、ホンに書いてあることもないことも、ホンを元にして作るわけじゃないですか。行間とかも含めて「ホン」ということを僕は言ってるつもりなんだけど。ホンに全くないことは…撮れんのかなあ、と思うんだけど。
―完成版の展開や結末も脚本通りですか?
坂本:そうそう、地図書いた通り。多分そうだと思うよ。
―いまおか監督は『たまもの』を撮る前はけっこう時間が空いていましたよね?
いまおか:そう、2年ぐらい空いてたんだよね。その前に(サトウ)トシキさんにホンを頼まれて、『手錠(ロスト・ヴァージン やみつき援助交際)』('02)が若い女の話だったからおばさんの話がいいかなと書いたんだけどずっとお蔵入りになってたのを、あるとき(国映の)オネエさんに「あれやれば?」と言われて。俺はやっぱホン作りが気になるんだよね。これはどういうやりようで決定稿に落ち着いたの? 最初の大元を自分で書いてるから、後はもう球は投げたという感じなの? それとももうちょっと速い球にして投げていきたいなという感じなの?
坂本:その例えがどうなのかよくわからないけど…現場ではもっとよくなったらいいなと思って撮ってるんじゃないの?
―でも、ご自分では(脚本は)書かれないんですね?
坂本:それは僕に筆力がないからです、単純に。字は書けるけど、シナリオは書けない。たまに漢字も間違えます。自分の監督作に関してはそういう気持ちでやってます、今の段階では。
いまおか:でもいっつも思うんだけど…坂本の最初に書いてくるやつもさ、へんてこりんだよね、テーマが。変ていうかさ、「こんなのエンターテインメントにならんだろう!」というところに目がいくんだよね。わかりやすく言えば“生と死”みたいな。自分で最初にホンを書いちゃうっていうのもそうだけどさ、やりたいことがあって映画を作ってるっていうのがさ…うーん、いいんだけど…いいのか?
坂本:「やりたいことやりやがって!」みたいに言うけど、いまおかさんだって芯があるじゃないですか。俺なんか、いまおかさんほどないよ。褒め合ってるみたいで気持ち悪いけど、でもまあそういうことじゃない? だって負けたことないでしょ?
いまおか:あるよ。
坂本:うーん、たまにあるか。でも曲がった気はしないんだろうけど。いまおかさんは芯ありますよ、誰よりもあるんじゃない?
▼ふたまた疑惑
―Cプロではお二人とも俳優の吉岡睦雄さんをキャスティングされていますが?
坂本:「ふ・た・ま・た」の吉岡君は『疑惑』(野村芳太郎監督)の加賀丈史ですよ。この映画は存分に『疑惑』だから。ちょうど撮るちょっと前に野村芳太郎の追悼上映を東劇で観て、「これだ!」と思ったんだよ。(脚本の)尾上君にも、女二人が顔を合わせるところは『疑惑』の桃井かおりと岩下志麻の対決のシーンみたいにしたいんだけど、と言って。
―『ふ・た・ま・た』は橋の上から窓に急にズームするシーンがありますよね?
坂本:んー、そうしたらいいかなと思ったんですね。
いまおか:あれは坂本の意見なんだ。
坂本:うん、だってズームレンズは借りてこないとないじゃん。場所決めてから「ここからこういうふうに撮ったらどう?」みたいな話だったのかな。
いまおか:ああ…へえー。考えてんじゃん、カット割りとか。
坂本:考えてるよー。
いまおか:俺、考えてないよ。キャメラマンまかせ。
坂本:ああ、いまおかさんは考えてない。
―普通はむしろ(あからさまなズームなどは)避ける感じじゃないですか?
坂本:やってるよ、みんなビビーンって。わざとする人も、わざとしない人も同じじゃないの? 両方とも意識的にどっちかをただ選択してるだけだから。
―編集のリズムがかなり独特で面白かったんですけど。人物の心情や物語の流れとは違うところでカットをつないでいる感じがして。それで物語がわからなくなるわけではないですけど、どこか自然じゃないんです、テンポが。
いまおか:そんなこと考えてないよなあ。考えてたら撮れないよね。
坂本:考えて撮ってる人いるよ、(ミヒャエル・)ハネケとかそうだよ、きっと。
いまおか:まあそういう人もいるだろうけど。考えて撮ってもいいんだけど、予算とか日数とか考えるとかけてられないんじゃないか。その中でできることをやらなきゃいけないわけだから。
―坂本監督は『輪廻』(清水崇監督)を絶賛されていたそうですが、『ふ・た・ま・た』の撮り方はホラー映画に向いていると思いました。
坂本:別にホラーに興味があったわけではなくて、『輪廻』はいい映画だなと思ったんですよ。お会いしたことないですけど清水(崇)さんは年齢も近いですし。めっちゃ盛り上がるでしょ? プロフェッショナルな仕事だなと思いましたよ。
―他に同世代で意識してる人はいますか?
坂本:イチローとか。同い年だから。
いまおか:よく言うよね。照準、高いよ。君は偉くなるよ。
坂本:イチロー、金城武、浅野忠信が同じ。松井(秀喜)とかは下なんだよ。映画監督だと1973年生まれはあんまりいないんだけど、1974年がハーモニー・コリン、1972年は清水崇さん…熊切(和嘉)君が1975年かな? 1976年だと山下(敦弘)君とか、向井(康介)君とか。
いまおか:自分と同い年のときに他人が何をやってたか、というのは気になるよ。自分と同い年のときに相米(慎二)さんは何を撮ってたか、とか。上を見てもきりがない、下を見てもきりがない。細々とやっていくしかないねえ…。
―いまおか監督の大きな夢は?
いまおか:いや、細々とずっとやっていくことだよ。
▼楽をしない
―8本の中で気になる作品はありますか?
いまおか:『草叢』(堀禎一監督)かな。苦しんでやってるところが…見方としてはおかしいのかもしれないけど。ホン面白いなあと思った。最終的には読んでないんだけど、映画を観て「ホン面白いなあ」と思って。
―先日、城定(秀夫)監督が『たまもの』に対してやはり「苦しんで作っている感じがするのが好き」とおっしゃっていました。
いまおか:俺はそんなに苦しんでないよ。でも最も苦しんだのはトシキさんのような気がするけどね。監督はすぐに楽しちゃうから、楽をしないようにどうすればいいのかを考えなきゃいけないよね、という話をしてて。だってさあ、佐々木ユメカの靴下(ストッキング)の色が違うって言ってリテイクしたんだよね?(『団地の奥さん、同窓会へ行く』) ありえねえだろ、そんなの。堀君はやっぱそういうところから学んでるんだよ。大阪行って大阪撮れてないじゃん、というのもやっぱそういうのがあるんだよね。
―特定の場所や風景を元に撮ることはありますか?
坂本:僕はありますよ。僕は東京東部で撮ってますけど、(意図的に)そうしようと思って撮ってますよ。多摩川の土手とかで撮ったりはしないです。違うんですよ、やっぱり。撮るときには順序立てていかないと見えないことが誰にでもあると思うんですけど、僕にとってはそれが、どこで撮るかというところなんです。
―それは脚本とほぼ同時ですか?
坂本:うん、もう端からあるよ。外国にいる人を撮ろうと思ったときには外国にも行きますよ。『たまもの』は銚子で撮ってるんだよね?
いまおか:それはたまたまだよ。だけど一応どっかで撮らなきゃいけないわけよ。あれは裏が海のボーリング場で、近県で行けるところはほとんどなかったんだよ。あのときはキャメラマン(鈴木一博)に「『ロゼッタ』(ダルデンヌ兄弟)みたいに」って言ったけど、全然関係なく撮ってた。(ダルデンヌ兄弟は)そんなにいいか?っていう感じはあるんだけど、作り方としてはこういうのもありなんだなとは思う。
坂本:まあでもみんなね、楽しないための抵抗の仕方が違うから。
いまおか:楽しなければ面白いものにつながるっていうのがどこかであるんだよ。
坂本:信じてるっていうかね。
▼監督と映画の距離
―登場人物の誰かに特別な思い入れがあったり、どれかひとつのキャラクターにはまったりしますか?
坂本:俺はないなあ、みんな同じ。
―それは観ていても感じました。どの人に対しても同じ距離感だなあ、と。
いまおか:でもほら、(『豊満美女 したくて堪らない!』('03)から )石川祐一さんの主役が続いたじゃない? 田尻(裕司)が言ってたんだけど「これ坂本だよね?」って。
坂本:それは観る人がそう思うだけであってさ、べつに撮ってる人間は意識してないと思うよ。ウディ・アレンも書いてたよ、「こういう映画を撮っていると僕自身もこういうことをやっていると思われるけど、べつに僕はあんな女性も知らないし、映画を撮るにあたってそういうキャラクターを作ってるだけです」って。
―自分の中に全くないキャラクターやエピソードでも撮れますか?
坂本:どうなんでしょうかそれは? 僕にもよくわからないですけど。
―自分が全く関わっていない脚本とか。
坂本:うーん、いきなりホンを貰って撮ったことがないからあれだけど…その中で見つけようとするから。見つかればべつにいいわけで。
いまおか:このホンのテーマはどこから始まったんだっけ?
坂本:僕のおばさんのよっちゃんを撮りたいなと思って。
―映画を観るときには何が一番気になりますか? シナリオとか、ストーリーとか、キャラクターとか…
坂本:まあそういうふうに言われると…監督かな。俺はもう映画の向こうにいる監督を気にして観てるよ。
―それはご自身が監督になる前からですか?
坂本:うーん…どうなんだろうね。でも誰が何を作ったか、ということだなあ、やっぱり。映画を観るってのは。
いまおか:俺はあんまないんだよね。俺はキャラクターかな。やっぱどんなにホンや演出がよくても映ってる人がだめだったらだめだろうしなあ、とか。
▼岡田准一はかっこいい
―ピンク映画とは関係なく撮ってみたい人は?
坂本:そりゃあいるよ、渥美清とか。だって渥美清すげーんだよー。あとキルスティン・ダンストとか、可愛いから。
―また大きく出ましたね。話が急にワールドワイドに…
いまおか:俺、岡田准一。『花よりもなほ』(是枝裕和監督)の予告観てたらめっちゃかっこよかった。
坂本:ああー、かっこいいなあ。岡田君かっこいいよね。最近のは何観てもいいよね『東京タワー』とか。
▼自棄のエンターテインメント
―ピンク映画のよさってなんでしょう?
坂本:いいとこある?
いまおか:うーん。
坂本:だけどね、やっぱり「恋愛映画」でくくられるピンク映画を撮ってちゃだめだと思った。
いまおか:昨日も神代(辰巳)さんの映画を観ててね、自棄になってる感じが見えるんだよ。41歳でデビューして4年間ほされた後で撮るとなったら、ガチガチにやるか自棄になるかどっちかしかないんだよ。そのときに自棄になるほうを選んでるって感じが…そういうのが観たいなって思う。ポレポレ東中野の(支配人の)大槻さんと話してたんだけど、今ドキュメンタリーみたいなものはほとんどないものとして扱われてるらしいんだよ、何をやろうと。だったらもう自棄になって撮っちゃおうかみたいな空気があるんだって。ピンクにとっても(どうせ)無視されてるんだったら「知らねーよ!」みたいな空気があるんじゃないかって。自棄になるって結構いいんだよ、元気になるっていうか。上手くいくときもそうでないときもあるけど、土壌としてピンクを支えてるのは、自棄のやんぱちみたいなところにあるっていうかさ。それは面白いなあと思うんだよね。エンターテインメントってそこなんじゃないかって気がすんだよね、他人を楽しませるっていうのは。自棄になってるっていうのはエンターテインメントだよ。なかなか観られないよ、それは。ちょっとメジャーにいくと自棄にならない仕組みがやっぱあるじゃん。
坂本:…で?(笑)自棄のやんぱちを観に来てくれってことか。
▼いまおかさんとはつき合いたくない
―お二人と共に“ピンク七福神”のメンバーでもあり、今回は二作が上映される田尻監督にメッセージを。
いまおか:田尻いいよね。
坂本:僕はもう田尻さんの人生を応援してますよ。たとえ田尻さんが映画を辞めても僕は田尻さんの味方ですよ。
いまおか:いや、田尻はいいよ。田尻は素晴らしいよ。「バカでいいんだ」ということを一番実感させてくれる人。田尻とは獅子プロ時代から15〜6年かな? 変にしつこかったり打たれ強かったり、本人は自覚してないんだろうけど…。
―女池充監督は、「自分には坂本の映画は撮れない」とおっしゃっていましたが?
坂本:俺だって女池さんみたいな映画は撮れないよ。みんなそうでしょ。
いまおか:いや、でもそれは特に、だろ? 特に俺らの周りで言うと、坂本のが一番わからないってことなんだよ、そういう意味では。届かないっていうか、手が周らない…背中の(自分では)洗えない場所みたいな感じなんじゃないの?
坂本:そんなことじゃないんじゃないの? 洗えない部分ってみんなあるじゃん、洗いたくない場所とか。
いまおか:いや、坂本はかなりおかしいよ、自分では意識してないだろうけど。
―遠慮のない人柄な感じはしますよね。嘘がない、ということですけど。
坂本:え、それどういうこと? そうかあ…やっぱもっと気を使えるようにならなきゃだめかなあ…
いまおか:でも俺が女だったら絶対に坂本とつき合わない。
坂本:だけどつきあう人がいるっていうこの世の中の受け皿の広さ、これは素晴らしいよね!
いまおか:色んな人がいるからね。
―お互いにつき合いたくないと思う理由が、きっとそれぞれのよさなのでは…
坂本:俺だっていまおかさん嫌だよ。5年ぐらい一緒に住んでたけど、どうしていまおかさんとつきあうのかわけわかんねえよ。
いまおか:色んな人がいるんだよ。
坂本:俺はそんなんじゃないよ。おかしいなと思うよ、いまおかさんとつきあうなんて。
いまおか:楽だよ?
▼女子が好きです
―ではそんなお二人から、これから観に来てくれる女子の皆さんへ…
坂本:僕は本当に女子が好きです。女子のことしか考えてません。
いまおか:嫌いなんだけど、なしじゃいられないんだよ。
坂本:強いて言うならさ、世の中の不幸は女子と男子しかいないことだよ。もしあと3つぐらい性別があったら、かなり上手くいくと思うよ。浮気の概念なんてなくなると思うよ。ふたつの性しかないことが幸せであり、不幸でもあるんだろうけど…単純に僕らは男から見た女子しか描けないわけですよ、それがある意味武器でもあるわけですよ。それを飛び越えてやることは僕は不可能だと思ってるし、そんなことをしてもしょうがないと思ってるから。
坂本・いまおか両監督の話を聞いていると、本当に二人の人柄がそれぞれの映画そのものだという気がします。それはこのインタビューを読んだ方も感じられたのではないでしょうか。映画は監督そのものではありませんが、作っている人間が透けて見えるからこそ危ういし、面白いのです。そしてこのような監督たちが一体どんなピンク映画を撮っているのか、是非その目でお確かめください!
(インタビュー・構成:那須千里)
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